マーガレット・ミラー/ミランダ殺し(1979)
(創元推理文庫、1992年)




Amazon.co.jp : ミランダ殺し

<ストーリー>
カリフォルニアの高級会員制リゾート、「ペンギン・クラブ」。
会員達は、みな金持ちですが、妙な人ばかり。
誰かれかまわず人を中傷する手紙を書いては、匿名で送りつける老人。
両親が不仲なため、シャワーの排水口を詰まらせたりプールに魚を投げ込んだり、悪戯ばかりしている少年。
そして、ミランダは、怪しげな若返り薬や美容手術に大金をつぎ込む中年の未亡人。
ある日彼女はクラブのプール監視員とともに姿を消します。 



物語には、パターンというものがあります。
ミステリだったら犯罪が起こって捜査が行われて最後に解決するとか、
恋愛小説なら男女が出会って、いろいろあって最後にくっつくとか別れるとか。
こちらもそれを意識した上で、「パターンどおり」とか「ちょっとひねってるな」とか思いながら読むわけです。
最近のディズニー映画など、設定を見ただけでストーリーから結末まで予想できてしまったりします。
つまらないようですが、反面、安心して物語にひたれます。

さて、マーガレット・ミラー「ミランダ殺し」、ミステリ&サスペンス小説の従来のパターンを完璧に無視、というか踏みにじってます。
ことごとく、読者が期待するのとは別の方向に話が展開してゆきます。
第一、タイトルに反してミランダはいつまでたっても殺されません。
じつは姿を消したミランダ、何事もなかったかのように戻ってくるんです。すごい肩透かし!
(絶対殺されたと思いますよね!?)
そして、だーれも殺されないまま物語は進んでゆき
4分の3を過ぎたあたりでようやくひとりの人物が死ぬのですが、なんとそれはミランダではないのです。
一体どうなっているのでしょう??
タイトル(The Murder of Miranda) の意味は??


全く先が読めないストーリー展開。
・・・作者に鼻面をつかまれてあちらへこちらへ引きずりまわされる気分です。
   決まった形式やパターンにとらわれることのない、ベテラン作家の円熟の技を満喫しました。
全体を彩る屈折したユーモア。
・・・会話が素晴らしく、しかもたっぷり笑えます(訳文もいいです)。
そして意外で鮮やかなラスト。
・・・これは当時としては衝撃的だったと思います。現代の読者にはちょっと破壊力不足ですが、意外は意外。

マーガレット・ミラー(1915〜1994)は、
「さむけ」「ウィチャリー家の女」などで有名な作家ロス・マクドナルドの妻で、
夫婦そろって旺盛な執筆活動を繰り広げました。
サイコ・サスペンスの名手と言われていて、人間の心の闇を独特の上品なタッチで描き出します。
「ミランダ殺し」はそんな彼女の円熟期を代表する傑作長編。
彼女の作品では、「殺す風」(創元推理文庫)、「まるで天使のような」(ハヤカワ文庫)なども面白かったです。

(03.2.2.記)

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