マーガレット・ミラー/悪意の糸(1950)
(宮脇裕子・訳 創元推理文庫 2014年)



Amazon.co.jp : 悪意の糸 (創元推理文庫)

<ストーリー>
不穏な空気をはらんだ夏の午後、医師シャーロットの診療所にやって来た若い女。
ヴァイオレットと名乗る女は、夫ではない男の子どもを妊娠したという。
彼女の“頼み”を一度は断ったシャーロットだが、混乱した様子が気に掛かり、
その晩、ヴァイオレットの住まいへと足を向けた・・・。
卓越した心理描写を武器に、他に類を見ないミステリを書き続けた鬼才による傑作、本邦初訳。


なんと16年ぶりに、マーガレット・ミラーの作品が邦訳されましたっ!

マーガレット・ミラー(1915〜94)は、アメリカのミステリ作家。
ロス・マクドナルドの奥さんでもありました。

私はミラーの荒涼として冷たい、それでいて詩情あふれる小説世界が好き好き大好き超愛してるでありまして、
以前に「殺す風」 「ミランダ殺し」をご紹介したことがあります。
しかしわが国ではミラーの作品は軒並み絶版、忘れられた作家となって久しいです。
ところがこのたび創元推理文庫さん、これまで本邦未訳だった長編をいきなり文庫で出してくれました。
没後20年記念かな? ありがたや!

「悪意の糸」(1950)

登場人物はみな一癖二癖。
主人公シャーロットを含めて全員腹に一物ありそうで、いわゆる「いい人」はひとりもいません、誰も信用できません。
それでもみんな社会人として、自分なりに普通の日常を送っています。
考えてみればそれが現実の社会なんですね。
なかなかにリアルで不気味です。

幕開けはごくシンプルなストーリー、と思わせておいて、
中盤から予断を許さない展開にページをめくる手が止まらなくなり、
「どいつもこいつも全員なにか企んでいるぞ!」状態で終盤へ。
最後の数ページでまるで手品のように真相が明らかになりますが、それは解決というよりひとつのカタストロフ。
デモーニッシュな余韻を残し、読者を突き放すように幕を下ろします。
たまりませんなあ。
「ミラー節」、この作品でも健在でした

 不穏です、荒涼としています、病んでいます。
 そして詩的で抒情的です。

しかも60年以上前の作品なのに、ほとんど古さを感じさせません。

さすがに 「殺す風」 「ミランダ殺し」 「まるで天使のような」 「明日訪ねてくるがいい」などの超弩級傑作に比べると一歩譲ります。
はっきり言えば、ミラーの凄さはこんなもんじゃないのですが、
ストレートかつシンプルな展開は読みやすく、「ミラー入門」としてはオススメかも。
これ読んで、冷たい心の闇に閉ざされたミラー・ワールド(でもなぜか美しい)に興味を持たれたなら、ほかの作品もぜひ。

そして来年はマーガレット・ミラー生誕100年!
絶版本の再発、未訳作品の刊行を期待しております!

(2014.9.3.)

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