ルクー/ヴァイオリン・ソナタ(1892)

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まがりなりにも音楽史上に名を残している作曲家で、最も早死の人といえば
「スペインのモーツァルト」とも言われる

 ホアン・クリソストモ・アリアーガ Juan Crisostomo Ariaga(1806〜1826) 享年20歳

だと思われますが、それに次ぐのがおそらくは、

 ギヨーム・ルクー Guillaume Lekeu(1870〜1894) 享年24歳0か月

でしょう。
ちなみに、リリ・ブーランジェ Lili Boulanger(1893〜1918) 享年24歳7か月 という女性作曲家もおられます。


ギヨーム・ルクーはベルギーに生まれ、フランスでフランクダンディに師事、
目覚ましい才能で将来を嘱望されましたが、1894年、ピアノ四重奏曲を作曲半ばで腸チフスにかかって死亡しました。

わずか24歳で亡くなったわりに作品は多く、
ベルギーのリチェルカーレ・レーベルからリリースされた作品全集はCD8枚だか9枚だったと思います(廃盤)。 (2015年に再発されました!→ ココ!
ルクーについては以前こんな記事も書きました。

とにかくエネルギー燃えたぎる熱血青年だったようで、バイロイトで感動のあまり失神して運び出された事件は有名(というか恥ずかしいだろ)

 「音楽に私の魂すべてを移しこむことに、とても苦心しています」

と述べたりもしてます。熱いぜ。

1891年には、カンタータ「アンドロメダ」でローマ賞第2位となるものの、本人は1位でないことが不満で

 「2位じゃダメなんです!!」

と言って、受賞を辞退しました。熱いぜ。

長生きしていれば、ドビュッシー、ラヴェルと肩を並べる大作曲家になっていたかも・・・・・・惜しまれます。


ヴァイオリン・ソナタ(1892)はルクーの代表作。
同郷ベルギーの名ヴァイオリニスト、イザイの依頼によって書かれました。
イザイはこの曲を携えて各地で演奏、大好評を博しました。

全3楽章、30分以上かかる大曲。
みずみずしい叙情、若々しい情熱、むせかえるようなロマンティシズム、美しいフレーズが次々溢れ出してくる名作です。

 

第1楽章 序奏を持つソナタ形式
冒頭に登場するやわらかでロマンティックなメロディは序奏であると同時にこの曲を統一する循環主題
何度か繰り返され、変奏されるなかで、今後登場するほかの主題要素もほのめかされます。
3:13からピアノで奏でられるやや活気を帯びたメロディが第一主題、じつはこれ循環主題の転回形です。
3:25 すぐにつづいて活発な第二主題がやはりピアノで呈示されます。
3:43から第一主題がヴァイオリンで再呈示されます。4:05から短い経過主題があって、4:12から凛とした第二主題があらためて呈示されます。
4:36からピアノが第一主題を静かに奏でて呈示部を終わりに導きます。
5:00から展開部、まず経過主題が展開され、5:28から循環主題の変形が嬰ヘ短調でヴァイオリンに朗々と歌われます。
6:12から短調に変じた第一主題が登場、さらに緊張を高めてゆき、
6:57からピアノのリズミックな伴奏に乗ってヴァイオリンが循環主題の変形を奏で、さらに熱気をはらんだ展開がひとしきり続きます。
8:19にはピアノに第一主題、ヴァイオリンに循環主題同時に登場し、ひとつのクライマックスとなります。
9:11 経過主題が出て9:30 第一主題が短調で再び登場します。
9:54 ピアノの循環主題に導かれてヴァイオリンが第一主題でそれに応えるところから再現部。
10:12 経過主題が再現、10:38 第二主題が超カッコよく再現します。
徐々に静まり第一主題を回想するうち、12:10あたりからヴァイオリンの低音に新しいメロディが登場、静かに閉じられます。

第2楽章 三部形式
ピアノに導かれてヴァイオリンが歌うメロディは循環主題の変形です。 やさしい旋律がいつ果てるともなく歌い紡がれます。
16:40から中間部、あたらしいメロディが登場しますが、第1楽章展開部で登場したリズミックな音型に似ています。
17:19 ピアノとヴァイオリンに第1楽章第一主題の変形があらわれます。
18:00、「飾り気なく、流行りうたのような情感をもって」と記された新しい主題がピアノに登場します。
余談ですがこのメロディを聴くと、なぜか私は映画「風の谷のナウシカ」を連想します。
18:31からヴァイオリンに登場する澄んだメロディは循環主題の変形。
ふたたび「ナウシカ主題」が抒情的に展開し、20:39から循環主題の変形が登場、やがて第1部の旋律が回帰します。
最後に第1楽章第一主題を短く回想して終わります。

第3楽章 序奏を持つソナタ形式
短く激しい序奏のあと、24:38から第一主題が呈示されます。
25:42から決然とした第二主題 25:58から柔らかな第三主題が提示され徐々に盛り上がりますが、
26:49 ピアノに第四主題が出たあと、静かになり抒情的な雰囲気となります。
28:01 循環主題が原形のまま登場するところから展開部。
29:09から第1楽章第一主題が登場、続いて第3楽章序奏主題が活発に展開されます。
30:31クライマックスでピアノに第3楽章第一主題が再現、ここから再現部となります。
第一主題はここでかなり長く展開され、31:15 第四主題が再現され、つづいて31:37 第二主題の再現、31:53 第三主題の再現と進みます。
そして、32:45から循環主題が回帰し、33:18には第1楽章第2主題がカッコよく歌われます。
33:52から全曲のコーダ、もういちど循環主題を全力で合奏して曲を閉じます。


 いやー、なんつうか・・・、詰め込みがすごい
 情熱と希望と憧れをてんこ盛りにして若気の至りでコーティングしたような、くどくて暑苦しい代物ですが、
 22歳のルクーの溢れるエネルギー、眩しいばかりの才能に圧倒されます。


CDは数種類持っていますが、一番バランスが取れていて聴きやすいのが、

ジャン=ジャック・カントロフ(ヴァイオリン)/ジャック・ルヴィエ(ピアノ)(1987録音)。
ピアノがめちゃくちゃ上手くて、ピアノ主導型の演奏といえるかも。
もちろんヴァイオリンも艶とふくらみのある美しい音で受け答え、両者のインタープレイで広がりのある力強い音楽を作り上げます。
安心しておすすめできる名盤。

古典的名盤といえるのが
アルトゥール・グリュミオー(ヴァイオリン)/リカルド・カスタニョーネ(ピアノ)(1955録音)
ベルギー生まれのグリュミオーはこの曲を2回録音していてどちらも名演ですが、これはモノラルの旧盤。
カントロフ/ルヴィエ盤に比べると、張り詰めた緊張感が印象的な、テンション高い演奏。
当時まだあまり知られていなかった同国人の名曲を、広く知らしめようという意気込みが感じられます。
グリュミオーの洗練されたノーブルな音はここでも魅力的。
ピアノが少し後ろに下がったような感じなのは、録音バランスのせいでしょうか。

一般的にはそれほど評価の高い録音ではありませんが、個人的にお気に入りなのが
ローラ・ボベスコ(ヴァイオリン)/ジャック・ジャンティ(ピアノ)(1981年録音)。
ボベスコは1921年ルーマニア生まれで、ベルギーのイザイ・コンクールで優勝して以来、ベルギーを拠点に活動したヴァイオリニスト。
これは没入・熱演タイプのホットな演奏、とにかく曲への共感が半端ないです。
しなやかな音色、幅広いヴィブラート、気持ちのままに揺れ動くテンポ。
音楽とともに生き、呼吸し、曲と奏者がひとつになった見事なパフォーマンス。
たまにテクニックは完璧なのに妙に冷静で分析的な演奏というのがありますが、いわばその対極。
クライマックスで音が少しうわずったりもするのも、かえって感動!なのであります。

 第1楽章
 

(2012.10.8.)

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