ルクー/ピアノ四重奏曲ほか(室内楽作品集)
(アンサンブル・ムジク・オブリク)



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<曲目>
弦楽四重奏のためのモルト・アダージョ
ピアノ四重奏曲ロ短調(未完)
チェロとアンサンブルのためのラルゲット
弦楽四重奏とピアノのためのアダージョ「追憶の蒼ざめた花々」
ソプラノとピアノのための3つの歌曲


昔ありましたね。

 「ルクールクーこんにちは」

というTV番組が。(・・・え、違う?)

夭折の天才作曲家ギヨーム・ルクー(1870〜1894)。
ベルギーに生まれ、パリに学び、セザール・フランク 最後の弟子となりました。
陽気で快活な好青年でしたが、情熱的で感受性が強く、熱狂しやすい性格。
ワーグナー「トリスタンとイゾルデ」の上演中に、感激のあまり失神、担架で担ぎ出されたという恥ずかしいエピソードの持ち主です。
ビートルズの公演に熱狂した女の子みたいですね。

ピアノ四重奏曲 ロ短調(未完・1894)は、憑かれたように、熱に浮かされたように、若い情熱がかけめぐる名作
・・・になるはずでしたが、
第2楽章の完成を前に、作曲者はチフスで倒れてしまいます。

「第2楽章の締めくくり方がわかった! 第3楽章の主題も全部浮かんだぞ!
 この曲は3楽章でまとめるから、それで終わりだ。
 終楽章は前の2楽章よりずっと美しくなる・・・!」


と、病床でうわごとのように口走りながら、亡くなったそうです。
まあ、口で言うだけなら何とでも言えますけどね(←コラコラ)。
享年24歳。

しかし真面目な話、ルクーの早世は本当に惜しまれます。
残された作品を聴くにつれ、長生きしていたらドビュッシー、ラヴェルと肩を並べる大作曲家になったに違いないと思えてなりません。

結局ピアノ四重奏曲は、当時の師匠ダンディが第2楽章終結部を捕作、2楽章の作品として発表されました。
火の玉のような若い情熱が七転八倒する恐るべき曲です。

 ピアノ四重奏曲
 

第1楽章
荒波のような弦楽器の十六分音符のユニゾンに乗ってピアノに提示される激しい第一主題! いきなりハートをわしづかみにされます。
主題は0:43からちょっと落ち着いた感じでチェロで歌われ、ヴァイオリンに渡されます。
1:47から新しいモチーフが弦のユニゾンで呈示、荒れ狂う波のような印象的な音型ですが第二主題というよりは第一主題部を締めくくるフレーズと言うべきかな。
2:08からピアノが第一主題をやさしく回想、弦楽器も加わって繊細に展開されます。
2:47 ヴァイオリンが憧れに満ちた第二主題を朗々と歌い上げます。
3:52 ピアノに落ち着いた感じの第三主題、弦楽器も加わってさまざまに展開されます。
6:34 ピアノの柔らかな和音に乗ってヴィオラに第四主題が登場、これも3つの弦楽器によって繊細に展開されます。
7:30 ヴァイオリンに第一主題の変形が出るところから展開部に相当する部分(といってもこれまでに各主題はさんざん展開されているんですが)。
ピアノが荒々しく加わり第一主題を中心に密な展開が続きます。
10:08 第一主題部を締めくくるフレーズが低音に登場、キャラ変って感じで面白く、この焦燥に満ちた部分はルクーの独創性が光ってると思います。
10:54 全休止ののち、第一主題が嵐のように再現、11:40 ヴァイオリンの高音に第二主題が再現。
12:49 第三主題が弦に再現しますが呈示部の時とは違い激しい情熱を感じさせます。
14:06から第一主題の変形によるコーダ、15:05 第一主題部を締めくくるフレーズが荒々しく再現し、凶暴なまでに激しく楽章を閉じます。

第2楽章
ヴァイオリンの短い序奏に続き、さざ波のようなピアノの分散和音のうえで3つの弦楽器がゆっくりとたゆたう幻想的な部分があって、
17:32 チェロから始まる優しいメロディが各楽器に広がり、優美な音の楽園が花開きます。
21:26から中間部(?)となり、ピアノに新しいメロディが登場しますが、これは実は第1楽章の第四主題です。
再現部で再現されないと思ったら、こんなところにひょっこりですか。
24:01から弦楽器は沈黙しピアノのみが新しいメロディを奏で、徐々にほかの楽器が加わってゆきます。
瞑想的に進んでゆき、各声部が精妙に絡まり合いながら夢見るように静かに楽章を閉じます。
  (この楽章はもっと長くなるはずだったと思われます。形式的にまとまっていません。でも素晴らしい音楽)

 第3楽章、もし完成していたらどんな音楽になっていたのでしょう・・・。


このCDは、ルクーの室内楽の名作を集めた一枚。
「ピアノ四重奏曲」以外も、素敵な曲が目白押しです。
17歳で作曲された「弦楽四重奏のためのモルト・アダージョ」の瞑想的で悲痛な響き、
弦楽四重奏とピアノのためのアダージョ「追憶の蒼ざめた花々」の、はかなくもやわらかい歌。
紛れもない天才の刻印がここに。

このCDに加え、「ヴァイオリン・ソナタ」を聴けば、ルクーの主要作品をほぼ押さえることができます。

(08.8.2.)


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