ギヨーム・ルクー/作品全集(8枚組)



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知られざる名曲の玉手箱


24歳で腸チフスのために亡くなった夭折の天才作曲家、ギヨーム・ルクー(Guillaume Lekeu, 1870〜1894)。
若き天才の音楽は、火の玉のように熱く、濃厚なロマンと輝くオーラを放ちます。
官能的な旋律美、メランコリックで抒情を帯びた響き・・・魅惑的です、惹かれます。

1994年に、没後100年を記念して、母国ベルギーのリチェルカーレ・レーベルから「ルクー作品全集」がリリースされましたが、やがて廃盤に。
私はバラで4枚集めたのですが、残りを入手することはできず、半ばあきらめていました。
ところがびっくり、2015年にボックスセットとして安く再発されたではありませんか!
いやあ、長生きはするものです。

曲順は以前の発売時とは変わっており、再編集されて全9枚だったものが8枚になっています。
1枚目に代表作「ヴァイオリン・ソナタ」と最後の作品(未完)の「ピアノ四重奏曲」が収められていて、いきなりガツンときます。
演奏者は国際的にはあまり知られていない人たちではありますが(おそらくほぼベルギー人)、作品への共感が半端なく、
力強く熱のこもった名演に胸が熱くなります。

2枚目以降に収められているのは、無名の曲ばかり。
しかし「知られざる名曲」と呼ぶにふさわしい珠玉の傑作がちりばめられていて、しばしばはっとさせられます。

とくに驚いたのは管弦楽作品の意外な(失礼)素晴らしさ。
「交響的習作第2番『ハムレット/オフィーリア』」(1890)は、
師匠フランクの影響を感じさせながらも、フランス的近代和声とバロック風な音の運びの組み合わせが斬新で、
すでに独自の魅力をビンビンに発揮しています。

 

「ピアノ・ソナタ」(1891)は、2つのフーガ楽章をもつ全5楽章のソナタ。
二十歳やそこらでなんという大胆な音楽を書くのでしょう。
冒頭から、透明な宝石が滴るような美しさにただ陶酔。
バッハに範をとったようなフーガが次第に厚みを増し、熱を帯びてゆく様は、巨大な音の伽藍が構築されるのを見る思い。
分厚い和音、ロマンテックな和声は非常に近代的、いや現代的ですらあります。
ときどき、「ビル・エヴァンズかよ、これ」と言いたくなるほど独創的な和音が出てきます。
なんつうぶっ飛んだソナタ、恐るべしギヨーム・ルクー

 

そして大曲、カンタータ「アンドロメダ」(1892)
「ローマ賞」第2位となるも、本人は「2位じゃダメなんです!」と受賞を拒否したいわくつきの作品。
非常にテンション高い曲です、熱い熱い暑苦しいまでの激情のほとばしりを存分に堪能できます。

 ルクー「アンドロメダ」室内楽版より
 

いや、とってもいい曲ですよ。
それが証拠に、名ヴァイオリニストのウジェーヌ・イザイは、「アンドロメダ」を聴いて感銘を受け、ルクーにヴァイオリン・ソナタの作曲を依頼することになります。
その結果作られたのが、ルクーの最高傑作「ヴァイオリン・ソナタ」です。

長生きしていたら間違いなくドビュッシー、ラヴェルと肩を並べる存在になっていたはず。
そんなルクーの全作品をCD8枚に収録し、コンパクトなボックスにまとめたこのセット、フランス音楽好きには見逃せません&聴き逃せません。

(2016.02.08.)

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