ルクレール/ヴァイオリン・ソナタ集 作品5より
(寺神戸亮:ヴァイオリン ほか 1993録音)



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未解決! ルクレール殺人事件

音楽史に名をのこす作曲家で殺人事件の被害者となったといえば、この人くらいじゃないでしょうか。
しかも事件は迷宮入り。

 ジャン=マリー・ルクレール(1697〜1764)

リヨンに生まれ、幼少からダンスとヴァイオリンを学びます。
当時のフランスでは音楽家として名を上げるにはダンスもできることが必須条件。
なにしろ絶対君主ルイ14世自身がすぐれたダンサーでした。

トリノでダンス教師をしたりオペラの舞台に立ったりしましたが、1721年にパリに出て、1723年にヴァイオリン・ソナタ集 作品1で作曲家デビュー。
1728年にはコンセール・スピリテュエル(パリのテュイルリー宮殿で催される権威ある演奏会)に出演して絶賛。
以後はヨーロッパ各地を演奏して回り、イタリア人のピエトロ・アントニオ・ロカテルリと共演したときには、

 「ロカテルリは悪魔のように弾き、ルクレールは天使のように弾く」

と評されました。
レガートを重視し、歌うことを主眼に置いたフランコ・ベルギー派ヴァイオリン奏法の創始者のひとりと目されています。

 ソナタ第6番ハ短調より第2楽章 アレグロ・マ・ノン・トロッポ (これぞ天使のヴァイオリン・・・)
 

1743年にパリに戻り、1748年にはとある劇場の音楽監督を務めたりしますが、1758年に引退、妻とも別れパリの下町で一人暮らしをはじめます。
そして1764年10月23日の朝、自宅の戸口で刺殺体となって発見されました。
発見者である庭師、甥の音楽家ギヨーム・フランソワ・ヴィアル、別れた妻ルイーズなどが捜査線上に浮かびましたが、
結局誰も逮捕されることなく事件は迷宮入りとなりました。

 ソナタ第8番ニ長調より第2楽章 アリア・グラツィオーソ (優美な歌がひたすらに流れます)
 

ヴァイオリン・ソナタ集 作品5は、コレルリが完成したイタリア様式のヴァイオリン・ソナタにフランス風の典雅な味を加えた名曲ぞろい。
どの楽章にもたおやかなメロディが聴かれ、親しみやすいけれど品があります。

 ソナタ第11番ト短調より第1楽章 アンダンテ (静かに微笑んでいるような繊細なうた)
 

このCDはバロック・ヴァイオリニスト寺神戸亮のデビュー・アルバム。
モダン・ヴァイオリンのふくよかで脂気のある音色とは違う、生成りの布のような素朴な音。
メロディをじっくり歌い、噛んで含んでうまさを味わうような演奏。
品位が高く心地よく、音楽自体はシンプルですが熱くて濃い時間が流れます。

 ソナタ第8番二長調より第4楽章 アレグロ (躍動的で明るい楽章、中間部で短調に転調するところがなんとも優美)
 

(2022.08.06.)


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