佐藤正午/アンダーリポート
(集英社 2007年)




Amazon.co.jp : アンダーリポート

<ストーリー>
43歳の検察事務官・古堀徹は、19歳の村里ちあきの訪問を受ける。
ちあきの父親は15年前何者かに殺害され、
隣に住んでいた古堀は死体の第一発見者だった。
当時の記憶の小さな食い違いが頭から離れないと言うちあき。
彼女の話を聞いた古堀もまた、15年前の殺人事件にふたたびとらわれてゆく。


佐藤正午、好きな作家さんのひとりです。
ただ、前作「5」が個人的に合わなかったため、この作品にもしばらく手が出ませんでした。
読んでみたら・・・とても面白かったです。

ミステリとしても十分な完成度ですが、それだけではなく、
格調高い語り口、テンポのよい文章、ストーリー運びのうまさが渾然一体となって、
最高に読み応えのある小説に仕上がってます。

とくに読み終えてからもう一度冒頭に戻って読み返すと(絶対読み返さずにはいられません)、
最初は見逃していたいくつかのディテールがぴたりとはまって、
「そういうことだったのか」と思わず声が出るほど。 もう上手すぎ。
脂ノリノリきった作家の技を堪能です!

 「自分がやろうとしていることに、もし重大なあやまちがふくまれているなら、それを戒める力が、抑止しようとする力が働くだろう」

 「人と人が出会うところに犯罪がある。新しい出会いのたびに、かならず不幸の種がひとつ蒔かれる」

 「あなたが、あなたの人生を賭けて、その男を殺したのはわかる」

印象的な科白をちりばめながら、15年前の殺人事件の真相が徐々に見えてくる、その見せ方もカッコ良すぎですな。

狂言回しの古堀以外は、主要登場人物がすべて女性、というのが大きな特徴。
わずかに出てくる男性登場人物も、ほとんど描写されません。
被害者であるちあきの父親の性格など、書こうと思えばいくらでも書き込めるはずなのに、まったく言及なし。
よっぽど男を書くのがイヤなんですね・・・って、そうじゃなくって、
女性たちの姿を鮮やかに浮かびあがらせるためのテクニックでありましょう。

東野圭吾「白夜行」「幻夜」に似たところもありますが、
あれほど泥臭くもオドロオドロしくもなく、淡白で洗練された味わい、個人的には好みです。
そして余韻を残したラスト。
古堀と彼女たちはこれからはどうなってゆくのか・・・?
宮部みゆき「火車」を連想しました。

しかし、トーストの上にスライスしたリンゴを乗せて食べるのって、そんなに美味いんですかね?

(08.6.21.)

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