佐藤正午/ジャンプ (光文社 2000年)


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平凡なサラリーマン、三谷純之輔は、ある晩、恋人の南雲みはるとともに
彼女のマンションに戻ってきた。
部屋に入ろうとしたとき、みはるはリンゴ好きの純之輔のために、近くのコンビニで
「リンゴを買って5分で戻ってくるわ」
と言い残し、彼に鍵を預けて出かけていった。
部屋に入った純之輔は酔いも手伝ってそのまま眠ってしまうが
翌朝目を覚ましたとき、みはるの姿はなく、それどころか昨晩部屋に帰ってきた形跡もない。
大事な出張を控えていた純之輔は、仕方なくそのまま空港へ向かう。
数日後出張から戻ってきた彼は、
あの晩以来みはるの行方がわからなくなっていることを彼女の姉から知らされる・・・。


「本の雑誌」が選ぶ2000年のベスト1ということで気になっていた小説。
若い女性が突然失踪してしまう冒頭は、とても謎めいていてサスペンスフルです。
しかしこの男のほうも、恋人が突然行方不明になったからといって
全てを投げうって探索に乗り出したりはしないんですね。
一応警察に失踪届は出し、休日や夜の時間を利用してあちこちあたってみたりするんですが
出張にはちゃんと行くし、仕事もそつなくこなして見せます。
そういう小市民的なところがかえってリアリティがあって、読ませます。

で、ちょっとネタばれになっちゃうんですが、
実は中盤あたりから、みはるはどうやら自分の意志で姿を消したらしいことがわかってきます。
彼女の姉や他の関係者には会ったり連絡をとったりしているらしいのですが
純之輔の前には決して姿をあらわしません。
ついに彼はある結論に達します。
「南雲みはるはただ意味もなく世間から姿をくらましたのではない。実は僕の前から姿を消したがっている。」
それは何故なのか、この強烈な謎ゆえに、殺人はおろか犯罪すら起こらないこの小説は
並みのミステリをはるかにしのぐ強さで最後まで読者を引っ張ります。

結局、5年後、偶然の出会いから、なんともほろ苦い真相が明らかになります。
みはるの失踪に、直接のきっかけとなった「ある人物」がいたこともわかるのですが、
これがまたなかなか意外な人物で、
その瞬間、作者が張り巡らせた数々の伏線の周到さに感動してしまいました。

厳密にはミステリとはいえない小説であり、作者の狙いも別のところにあるような気もしますが、
私は非常によくできたミステリとして読み、堪能させていただきました。
(01.12.16.記)


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