小沼丹/お下げ髪の詩人・春風コンビお手柄帳
(小沼丹 未刊行少年少女小説集 幻戯書房 2018年)

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小沼丹(1918〜96)の、今年は生誕100年ということで、幻戯書房から、未刊行の少年少女小説集が2冊、同時出版されました。
意外と人気あるんでしょうか、小沼丹。

そういえば「オヌマたん」って名前もなんか可愛いね。

昭和30年代に「ジュニアそれいゆ」「女学生の友」「中学時代」「高校時代」などの雑誌に掲載されたものです。
「お下げ髪の詩人」が青春小説集、「春風コンビお手柄帳」がミステリ小説集となっております。

昭和の少年少女向けに書かれたものなので、内容はそれなり。
でも、のどかでノスタルジックな世界は、なかなかに魅力的。
著者も楽しんで書いているみたいで、肩に力が入っていないのが、かえっていいですね。
昔の少年少女向け読み物ってこんな感じだったよなあと、オッサンの胸は懐かしい香りにキュンとします(←きもい)。
なにしろ登場する少年少女がみんな素直で純朴です。
当時はラノべなんてなかったしね。
あ、いえ、ラノベの登場人物がみんな病んでて屈折しているというわけでは・・・ちょっとあるかも。

ただ、けっこうワンパターンではあります。
「お下げ髪の詩人」の後半は、高原の別荘地で美しい少女と出会い、淡い思い出がどうのこうのという、似たお話が並びます
(どれもきちんと読みごたえがあり、退屈はしませんが)。
著者も、いろんな雑誌にバラバラに書いたものが、まさか一冊にまとめられるとは思っていなかったことでしょう。
「オヌマたん」、いまごろ天国であわてているのでは。

小沼丹のミステリといえば、女教師ニシ・アズマ女史が探偵をつとめる「黒いハンカチ」(創元推理文庫)が有名。
あの飄々とした探偵ぶりが好きな私としては、「春風コンビお手柄帳」も似た雰囲気で嬉しくなります。
「モヤシくん」というあだ名の高校生が探偵役の5編と、
中学生のユキコさんとシンスケくんが活躍する5編、あとは独立した短編が5編収められています。
「日常の謎」的な作品が多く、発表された時代を考えると、けっこう先を行っていると言えるかも。
芥川賞候補となった「村のエトランジェ」(1954)や、「断崖」「砂丘」(1956)など、
ミステリテイストの文学作品を以前から書いていた小沼丹ですから、こういうのはお手のもの。
なお小沼丹の本業は早稲田大学英文科教授、授業のテキストにチェスタトンのブラウン神父ものを使ったりしていたそうです。

むかし雑誌で読んだオールドファンのみならず、「オヌマたんってどこのゆるキャラよ?」という若い人にも幅広くおすすめできる素敵な本です。
装丁も綺麗です、ちょっと高いけど。

(2018.08.20.)

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