小沼丹/ゴンゾオ叔父
(銀河叢書 2018)



Amazon : ゴンゾオ叔父 (銀河叢書)


静かな村に暮らす叔父や伯母。戦地で死んだ親友。空襲と焼跡。
「追憶の作家・小沼丹」を育てた原風景の数々。
戦中の修業時代から「第三の新人」として活躍するまでの初期短篇を初書籍化。


定期的に読みたくなる小沼丹(1918〜96)の小説。
淡々とした身辺雑記風の作品が多い人ですが、枯れて乾いた感じが独特の、いわば

 生活感のない私小説

とでも呼ぶべき作品群。
そのひっそりとしたたたずまいに根暗な私は強く惹かれるものであります。

そうした作風に至った契機が、1963年の妻の急死と翌年の母の死と言われています。

 「つくりものとしての小説に対する興味が次第に薄れ、身辺に材をとった作品に気持ちが動く」

 「いろんな感情が底に沈殿した後の上澄みのようなところが書きたい。或は、肉の失せた白骨の上を乾いた風がさらさら吹過ぎるようなものを書きたい。」

という、悟りを開いたような言葉を残しています。

この「ゴンゾオ叔父」は、そうした境地に達する前の初期短編集で、すべて初書籍化。。
ある程度起伏のあるストーリーと、多少ロマンティックで凝った表現が見られます(あくまで多少)。
これら初期短編のほとんどは、のちに別の作品として改作・引用されていて、マニアックな読み比べも楽しめます(←暇人)。
全般に改作後のほうがアク抜き・脂落としをしたみたいにシンプルで透明感があり、そっけなくさえあります。

それでも静かな諦念を浮かべた無常観はこれら初稿からも見て取れます。
後継ぎもなく没落してゆく伯母の家、思うような絵を描けないまま病没する画家、時のまにまに消えてゆく老教授とその娘の思い出。
地味で静かで、控えめなユーモアとペーソスはあるもののエンタテインメント性はほとんどなく、我ながらなんでこんなものが好きなんだろうと思わないでもないのですが、
小沼丹をみつけるとついつい買ってしまうのです(高いけど)。

(2020.06.13.)


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