小沼丹/不思議なシマ氏
(幻戯書房 2018年)



Amazon : 不思議なシマ氏 (銀河叢書)

収録作
「剽盗と横笛」
「不思議なシマ氏」
「ドニヤ・テレサの罠」
「カラカサ異聞」
「初太郎漂流譚」


親分:今年生誕100年の小沼丹(1918〜96)の未刊行作品が、また書籍化されたぞ。

ガラッ八:親分、最近「おぬまタン」よく読んでますね〜。

親分:「おぬまタン」って・・・、そんなゆるキャラみたいな呼び方やめてあげて! 思わずキャラクターデザイン考えてしまうじゃねえか。

ガラッ八:丸顔で目はくりくりして二頭身で・・・。

親分:あと、しっぽと猫耳もつけてと・・・って、やめんかあっ!

ガラッ八:ね、猫耳、つけるんですね・・・。

親分:お前が引くなよ、立場ねーじゃねーか!

ガラッ八:で、そもそも誰なんですか「おぬまタン」って?

親分:知らずに言っとったんかい!
   小沼丹は、味わい深い私小説作品で知られる小説家だ。
   ありふれた日常を淡々と描きながら(←小沼「丹」だけに)、なんとも言えない滋味と香気があり、つい何度も読み返してしまう。
   なお本業は早稲田大学英文科の教授だった。

ガラッ八:さりげなくひとりでボケてましたけど、するってえとこれも私小説なんで?

親分:いや、本書「不思議なシマ氏」は初期の中短編集で、私小説ではない。
   タイトル作の「不思議なシマ氏」(1959)は、ファンタジーっぽく始まり、ゆる〜いミステリ・サスペンスに着地する、独特の面白さをもつ中編。

ガラッ八:へえ、ミステリなんですかい?

親分:超ユルイけどな〜。 一番興味深いのは昭和中期の風俗を描いた部分だったりするな。
   上品なユーモアが適度にまぶされ、気楽に読めるよ。
   簡潔で歯切れ良い文章は、後期の私小説のような深みはないが、リズミカルで読みやすい。

ガラッ八:なかなか面白そうでやんすね。

親分:「ドニヤ・テレサの罠」「カラカサ異聞」(ともに1953)は、中世スペインと江戸時代の日本を舞台にした落語的ノリの短編。
   とくに艶笑譚である「ドニヤ・テレサの罠」は、小沼丹がこんなオゲレツで楽しい話を書くなんてと吃驚した。

ガラッ八:オゲレツな話、好きですもんねえ、親分。

親分:ほっといてもらおうか。
   最後に収められた「初太郎漂流譚」(1968)は、江戸末期に海で遭難した漁師がスペイン船に拾われメキシコまで到達、
   様々な経験をしたのち、2年後に日本に帰還する話で、どうやら史実のようだ。
   「ジョン万次郎」とよく似た話で、時期もほぼ同じころらしい。
   師匠である井伏鱒二の「ジョン万次郎漂流記」を意識しているんだろう。

ガラッ八:読みたくなってきたでやんす、あとで貸してくださいよ。

親分:そりゃまあ貸してやらねえこともねえが、必ず返してくれよ、この本、高いんだからな。

ガラッ八:へえー、いくらなんで・・・・・・よ、よんせんえん!

親分:高いだろー、しかし小沼丹ファンとしては、ひいきのアーティストのグッズを買う感覚で思わず買ってしまったぜ。
   しかも帯には「初版1000部限定」なんて書いてあって、レア度も高い。
   いまどき、完売しても再版されるとは限らねえからな。

ガラッ八:あ、親分親分、帯の端っこに「続刊予定 純文学短編集/随筆集」とありますよ。
   これも出たら買うんですかい? きっと高いですよ〜。

親分:か、買うわい、買うたるわい、どこからでもかかってくるがよいわっ!

ガラッ八:いよっ、太っ腹! そしてあっしが借りてタダで読むと。

親分:このコバンザメがっ!

(2018.09.11.)

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