森博嗣/犀川&萌絵シリーズ と 紅子シリーズ
(講談社 1996〜2002)



「特に、先にこれを読んでほしいと言う希望はなく、好きな順に手にとってもらえれば良いと考えている。
人は、ばらばらのものを後から順番に並べる能力がある。遺跡の発掘の出土品も順番には出てこない。」

(「100人の森博嗣」より)
                                                     


<犀川&萌絵シリーズ(S&Mシリーズ)> 全10冊
N大学工学部建築学科助教授・犀川創平
その教え子で、N大学元総長の娘にして超お嬢様の西之園萌絵が探偵役をつとめるシリーズ・ミステリです。
いつも研究のことで頭がいっぱいの犀川助教授と、
抜群の記憶力・計算能力を誇る萌絵(「165×3367」なんて暗算で一瞬)のキャラクタが際立ってます。

<紅子シリーズ(Vシリーズ)> 全10冊
落ちぶれた名家の令嬢・瀬在丸紅子が探偵役となるシリーズです。
近くのオンボロ・アパートに住む自称私立探偵・保呂草潤平、大学生の小鳥遊練無(たかなしねりな)、
同じく女子大生の香具山紫子の3人は、やたらと事件に首を突っ込んでかき回す役(?)。



Amazon.co.jp : 赤緑黒白
「Vシリーズ」最終作 「赤緑黒白」


熱狂的なファンを持つ一方で、
コアなミステリ・ファンからは、「あんなものはミステリじゃない」とけなされることも多い森博嗣。
私はけっこう楽しんで読んでいます。

もっとも、純粋にミステリとして面白いのは、S&Mシリーズ第1作「すべてがFになる」と、
第6作「幻惑の死と使途」、Vシリーズ第1作「黒猫の三角」くらいかも。
じゃあ、なんで読んでるのかというと、
いわば「森ロジック」ともいうべき、独特のものの見方というか、世界観に興味があるのがまず第一です。

たとえば・・・、
 「社会に出て、大人になって、数学がなんの役に立つでしょうね?」
 (中略)
 「何故、役に立たなきゃあいけないのかって、きき返す」犀川はすぐに答えた。
 「だいたい、役に立たないものの方が楽しいじゃないか。音楽だって、芸術だって、何の役にも立たない。
 最も役に立たないということが、数学が一番人間的で純粋な学問である証拠です。」
(冷たい密室と博士たち)

 「思い出と記憶って、どこが違うか知っている?」
 (中略)
 「思い出は全部記憶しているけどね、記憶は全部は思い出せないんだ」
(すべてがFになる)

こういうの読むと、すぐ「ほーお」と感心してしまう、私は単純な人間でありまして、
どうやら意味も良くわからずに、やみくもに感心している気配もあるから始末が悪い。
こんなのもあります。
 
 「綺麗という形容詞は、たぶん人間の生き方を形容するための言葉だ。服装とかじゃなくてね」 (幻惑の死と使途)
 「正解とは、真実とは、本人がもっとも納得できる仮説に他ならないのです」 (地球儀のスライス)

・・・気の効いた会話の応酬、ハードボイルド小説のような警句、そして哲学的な(屁)理屈もあり、
ついついミステリであることを意識せずに読みふけってしまいます。 もう事件の犯人なんて誰でもよろしいっ!(こらこら)。
シリーズものではありませんが、「そして二人だけになった」には、まるで思想書のような文章が随所に挿入されます。

 経済的に自立している、という言葉もよく耳にしますけれど、定義のあいまいな概念と言うか、ほとんど妄想ですね。
 経済的に自立しようと思ったら、孤島で一人で暮らす以外にない。
 (中略)乞食のような自立を言っているのか、親から小遣いをもらう子供のような自立でしょうか?
 サラリーマンもまったく同じメカニズムですよ。
 そういう意味でしたら、主婦だって、会社の社長のように、旦那さんを働かせているわけですから、立派に自立していますね。
 とにかく、仕事をしていたら偉いんだ、という考え方は時代遅れです。
           (そして二人だけになった)

同書には、原子力発電の是非について、考えさせられる文章も載っていて、
事件のトリックよりそちらのほうが印象に残っているくらいです(おいおい)
 (「そして二人だけになった」新潮文庫版の280ページ)

こう書くと、お堅い論文のような小説だと思われるかもしれませんが、
森博嗣という人、実は笑える文章を書くことでは当代屈指の書き手でありまして、
「Vシリーズ」での練無と紫子のやりとりなど、抱腹絶倒もの。下手な漫才より面白い。
「S&Mシリーズ」でも、
 「そう、それは良かった。どなたかの思う壺」 萌絵はまた同じ表情で口もとを斜めにする。 「どうして、壷が思うのかしら?」
                                                    (今夜はパラシュート博物館へ)
こんな、クスッと笑えるギャグが、さりげなく仕掛けられています。

あと、シリーズとしての流れが、じれったくもあり、面白くもあり。
「S&Mシリーズ」では犀川と萌絵の関係がどう変化していくのか、というのがやっぱりお楽しみですね。
「Vシリーズ」は、最初は全く別シリーズと思わせておいて、
「実は・・・」という感じで「S&M」とリンクさせていく手際が、なかなかあざとくも巧みです。

とはいっても冊数が多いので、「とても読めない〜」というそこのあなた。
「とりあえずこれだけ読めばわかるぞ森博嗣のシリーズもの」は、下のとおりです。
なに、全部読む必要なんてありませんって。
上に書いている通り、読む順番も適当でいいそうですよ〜(ほんとかなあ)。

「S&Mシリーズ」
 第1作「すべてがFになる」・・・ある意味、森ミステリのすべてがここにある。テンション高い一冊。
 第6作「幻惑の死と使途」・・・本格ミステリとして綺麗にまとまっています。ラストのダンス・シーンが良いなあ。
 第10作「有限と微小のパン」・・・長いですがシリーズ最終作だし。「あの人」の存在感もグッド。

「Vシリーズ」
 第1作「黒猫の三角」・・・森氏によると、「もっとも本格ミステリよりの一作」とのことです。
 第2作「人形式モナリザ」・・・これが実質的には第1作と言う気も。一応押さえておきましょう。
 第5作「魔剣天翔」・・・新しいキャラクタが出てくるので、読まないと。
 第10作「赤緑黒白」・・・最終作。S&Mシリーズとのリンクに気づいて、「おお!」と驚ける読者は幸せ。


今年の夏には、ふたつのシリーズとリンクした、新たなシリーズがスタートします。
完全に戦略に乗せられていますが、楽しみでしょーがないです。

(03.4.26.記)


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