森博嗣/工学部・水柿助教授の日常
(幻冬舎 2001年)




Amazon.co.jp : 工学部・水柿助教授の日常 (幻冬舎文庫)


じつは、森博嗣さんの本、けっこう好きだったりします。
「犀川・萌絵シリーズ」(講談社)はすべて、ノベルズ刊行と同時に買って読んだもんです。
一番のお気に入りは「幻惑の死と使途」でした。
その次の、「V シリーズ(紅子シリーズ)」は、ちょっと熱が冷めましたが、それでも大体読んでるなあ。

森博嗣さんの作品はよく、「ミステリ部分が弱すぎる」と批判されますが、
本格ミステリとして読むというよりは、しゃれた会話と知的な雰囲気の「読み物」に、
ミステリ味のふりかけが少々かかっている程度と思って、気軽に楽しんでおります。
最近作では、会話が掛け合い漫才の域に達していて、さくさく読めます。
すでに独自の、個性的な文体を確立している人なので、一度慣れてしまえば非常に快適な読み物となります。
(というか、私はこの人、大変な名文家ではないかと思ってます。)

さて、「工学部・水柿助教授の日常」は、ノン・シリーズもので、ミステリではありません。
森博嗣という人、じつは本職は名古屋大学工学部建築学科の助教授であらせられます。
これは大学人としての自らの日常を、エッセイ風・私小説風につづった爆笑の一冊です。
「森」という文字を分解してちょっと変形すると、「水柿」になりますよね。)
大学という場所で起こるいろんなことをきちんと書けば、抱腹絶倒ものだと、私も、うすうす予想はしていましたが、
間違いなく森さんの著作の中で、一番笑える一冊としておすすめしたいと思います。

入試の監督・採点にまつわる話が一番おかしかったですが、
「ひえ〜」と思ったのは、二次試験(筆記試験)の採点作業の大変さ。
森助教授は毎年数学の採点をさせられるのですが、
「一問について、3、4人で担当して、二千近い枚数に目を通す。
 (中略)一番大変なのは、部分点のルールを決定することである。どこまで書けていれば何点、
 (中略)見ているうちに評価が変わってくるので、頻繁にディスカッションとなる」

三日間缶詰になってこれをやるそうです。 想像するだに恐ろしい・・・というか、馬鹿馬鹿しい?
マークシート方式の試験は、少なくとも、全国の優秀な頭脳が無駄に消費されないという点で、
 多大な貢献をしている。このメリットは、世間ではそれほど注目されていない」
・・・同感してしまいますね。

森博嗣という人のエッセンスが詰まった一冊のような気がしますので、
いままで森博嗣の本を読んだことないというかたは、まずこの本を立ち読みしてみて
(おいおい)
面白そうだと思えば「犀川・萌絵シリーズ」でも文庫本で買ってみられたら良いかも。
もちろんこの人の書くもの、かなり癖がありますから、「こりゃあかん」という人も多々おられるはず。
ちなみに家人がそうでして、
「読んでると腹が立ってくる」 そうです。
なぜどういうふうに腹が立つのかは、怖くて聞けない私です。
(02.11.13.記)


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