青柳いづみこ/六本指のゴルトベルク
(中公文庫 2012年)



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前回、胸に奇妙なアザができた件
チェロの角が胸に当たっているせいではないかと思って、チェロの先生(♂)に訊いてみると、あっさり、

 「ああ、僕もありますよ」

ヴァイオリン弾きの首にアザができるように、チェロ弾きは胸にアザができるのですね。
もっとも、楽器の構え方によってはできないことも多いそうですが。

しかし一日わずか30分程度の練習でアザができるというのは、
どこかに余計な力が入っている気がしないでもないなあ。


 青柳いづみこ「六本指のゴルトベルク」は、「モノ書きピアニスト」青柳いづみこさんの最新の文庫本。

古今東西の小説に登場する音楽を取り上げながら、音楽について、文学について、ミステリについて、そしてピアニストという蛮族の生態について、
ときに深く、ときに軽く、ときに怨念を込めて語る一冊。

取り上げられる本と音楽は、
トマス・ハリス「羊たちの沈黙」 バッハ「ゴルトベルク変奏曲」、
永井するみ「大いなる聴衆」
ベートーヴェン「ハンマークラヴィーア」
中山可穂「ケッヘル」
モーツァルトあれこれ。
S・J・ローザン「ピアノ・ソナタ」
シューベルト「ピアノ・ソナタ D.960」
奥泉光「鳥類学者のファンタジア」
ジャズ・ピアノ考
トルストイ「クロイツェル・ソナタ」
ベートーヴェンとヤナーチェクの「クロイツェル・ソナタ」
etc,etc・・・。

私も半分くらいは読んでますが、青柳さん、凄い読書量です・・・。

こんなに読んでちゃ、ピアノ練習する時間がないのではないかと心配になるほど。
まさか一日30分ってことはないわな・・・(あるかっ!)

巧みな文章、軽妙な語り口に乗せられて一気読み。
書物とクラシックをともに愛する方は必読ではないでしょうか。
ひとひねりしたお洒落なブック・ガイドであると同時に、プロの音楽家がナマの声で語った音楽書でもあります。
最近読んだエッセイ本のなかではダントツの面白さ。

もっとも、完璧が求められるプロフェッショナル・ピアニストの厳しくも痛々しい生態には、背筋が寒くなります。
エレーヌ・グリモーには、左右対称に傷をつける几帳面な自傷癖があったこと。
アルゲリッチ推薦の天才少年ピアニストが楽屋に鍵をかけたまま出てこず、リサイタルが流れた事件。
そのアルゲリッチも、ときどき楽屋の扉を固く閉めて出てこない時があるといいます。
青柳さん自身、リサイタルの前にはおかしくなるそうですから
プロ・ピアニストは多かれ少なかれプレッシャーに押し潰され、心に病を抱えてしまうのかもしれません。
グールドだけでないってことですね。

わが子をピアニストにしようとしている親が読んだら、考え直したくなるかも。
ウチの娘たちは二人とも音楽の才能がなくて良かったなあ・・・。

(2012.9.3.)


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