塩野七生/ギリシア人の物語U
民主政の成熟と崩壊
(2017)



Amazon : ギリシア人の物語 II 民主政の成熟と崩壊


国内の力を結集することで大国ペルシアを打破した民主政アテネ
不世出の指導者ペリクレスの手腕により、エーゲ海の盟主として君臨し、その栄光は絶頂をむかえた。
しかしペリクレス亡き後、民衆を無責任に煽動するポピュリズムが台頭。
衆愚政治に陥ったアテネスパルタとの泥沼のような戦争へ突き進んでしまう――。


デモクラシーとは、繊細に作られたガラス細工のようなものなんですよ
(塩野七生)



第1巻に続き・・・

塩野七生「ギリシア人の物語」第2巻

紀元前461年から404年までの出来事が描かれます。
この巻を読み終えて痛いほどに感じるのが、民主主義の脆さと怖さ

ペルシアを打ち破ったアテネは、周囲の都市国家を束ねた「デロス同盟」の盟主として繁栄。
天才的指導者ペリクレス(B.C.495〜429)が32年にわたって舵を取ります。
驚くべきは、彼が毎年選挙で選ばれていたこと。
毎年選挙があるなんて、現代の政治家には悪夢でしょうけど、それを30回以上乗り越えたわけです。

  形は民主政体だが、実際はただ一人が支配した時代(ツキディディス)

と評されるペリクレス時代ですが、民主政アテネの最高決定機関はあくまでも市民集会
二十歳以上の男子ならば誰でも参加し投票する権利がありました。
どうやって32回も連続で当選できたのか・・・。

ペリクレスは富裕階級の出身で、貴族的な男だったそうです(つまり庶民的では全くない)。
意に染まないことは決してせず、立ち居振る舞いは物静か、演説でも激しい言葉は使わず、その内容は聴衆にいろいろ考えさせるもの。
彼の唯一の武器、それは「言葉」でした・・・・・・これは受け止める市民の側にも、一定の知性と教養が必要でしょうね。

彼は民主政を成熟させ、エーゲ海の制海権を堅持し、デロス同盟を存続させるために全力を尽くしました。
そのためには充分な軍事力を保持しつつも、戦争に巻き込まれないことだと考え、
最大のライバルであるスパルタと休戦条約を結び、超大国ペルシアとも講和条約を成立させました。

しかし、紀元前431年、ちょっとしたきっかけからスパルタとの間に争いが起こり、「ペロポネソス戦争」(B.C.431〜404)の幕が切って落とされます。
不幸だったのは戦争が始まってまもなく、おそらくは適当なところで講和を目論んでいたペリクレスが病死してしまったこと。

優秀なリーダーを失ったアテネでは、勇ましい言葉で徹底抗戦を主張する一派が支持を集めはじめ、ペリクレスの流れを継ぐ穏健派と対立、政局は混乱へ。

ついに紀元前415年、扇動家アルキビアデスの弁舌にあおられた市民集会は、
ほとんど勢いというかノリで、戦争には直接関係ないシチリア島に対する開戦を決議。
しかし冷静な見通しもなく、イケイケドンドンでシチリアに乗り込んだアテネ軍はあえなく全滅。
アテネ軍は傭兵ではなく市民軍なので、一万人以上の男を失ったアテネの国力は一気に衰退、
デロス同盟を離反するポリスが続出し、ついに紀元前404年、アテネはスパルタに全面降伏し、「ペロポネソス戦争」は終結・・・。


いやー、怖かった。
なにが怖いって、賢明で冷静な指導者を失ったとたん、市民を焚きつける扇動家たちにより、一気に衆愚政治に陥っていく急展開ですよ。
民主的である市民集会の多数決によって、アテネは泥沼にはまっていくんです。
「民衆の声を政治に活かす」といえば聞こえは良いですが、民衆の意見を聞いたうえで冷徹に判断を下す優秀なリーダーがいなければ、
民主政は衆愚政に堕する恐れがあるのを痛感しました。
しかしリーダーが野心的で権力志向に過ぎると、ほんとに独裁政治になってしまいます。

 つまり衆愚と独裁の間でたえず調整し、バランスを取っていかなくては民主主義は維持できない。
 デリケートでもろいものなのです。

後の時代から客観的に見れば「こいつら馬鹿だね〜」と言えますが、いざ自分たちが同じような状況に置かれた場合、
流れに逆らってでも冷静な判断ができるのか、胸に手を当てて考えなくてはいけません。

 「まだまだいけるかー!?」 「イエー!!」

なんてピョンピョン跳ねていると、大変なことになってしまうかもしれないのです。

それにしても、これが2500年も前の出来事とは・・・・・・。
しかもすべて記録に残っているとは・・・・・・。
当時日本はまだ国家の体すらなしていなかったわけで、「ギリシア凄い!」としか言えませんが、
その凄いギリシアも、いったん衰退すると、もはや立て直すことはできなかった・・・・・・。
やっぱり怖い。

(2018.01.08.)


現実主義者が誤りを犯すのは、相手側も現実的に考えるだろうからバカなまねはしないにちがいない、と思い込んだときである。
(塩野七生)


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