塩野七生/「すべての道はローマに通ず」
(ローマ人の物語 ])
 
(新潮社、2001年)




Amazon.co.jp : ローマ人の物語 (10) すべての道はローマに通ず


塩野七生のライフワーク「ローマ人の物語」、この第10巻は、ちょっと毛色が変わっています。
これまでのように年代を追ってローマ帝国の歴史を描くのでなく、1巻まるまる、「ローマのインフラ」の解説にあてています。
一瞬、「インフレ?」と思っちゃいましたが、インフレでなくて「インフラストラクチャー」
「下部構造」とか「社会資本」と訳されますが、要するに道路・橋・港・水道など、公共事業的なものです。
広い意味で教育や医療や法律もインフラに含まれます。

著者の主張は要するに、

 「ローマ帝国のインフラは、現代の先進国に勝るとも劣らないレベルであった」ということです。

帝国全土に「ローマ街道」と呼ばれる立派な舗装道路網をはりめぐらせ、水道橋を作って水の安定供給を実現、しかも基本的に使用料は取りません。
この、使用料はタダ、というのは大切なポイントです。
ローマ人はインフラを、「人間が人間らしい生活を送るのに必要なもの」と考えていて、
それを整備するのは国家の責務であり「公の仕事」であると考えていたということです。
最古の「アッピア街道」の着工はなんと紀元前312年!
その後、周辺の地域を征服し属州化すれば、そこにもちゃんと道路と水道をひいてやり、
いまでもヨーロッパ全土にローマ街道と水道の遺跡が残っているんだとか。
そしてこれらの街道の通行の安全は、ローマの軍隊によってかなりの程度まで保障されていたと聞けば、
地域紛争やテロの頻発する現代の世界情勢と引き比べて、いったい文明の進歩とは何だろうという気がしてきますね。

塩野七生は「まえがき」で、

 「この巻は、あんまり面白くないですから、覚悟して読んでくださいね」

みたいな事を書いておられますが、実際には大変面白かったと同時に、いろいろ考えさせられた一冊でした。
巻末に、各地のローマ街道や水道橋などの遺跡の美しい写真が60ページ以上も収められていて、これらもとても楽しめます。

(02.3.23.記)


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