塩野七生/ギリシア人の物語V 新しい力
(新潮社 2017)
Amazon : ギリシア人の物語III 新しき力
夢見るように、炎のように―永遠の青春を駆け抜けたアレクサンダー大王。
32年の短くも烈しい生涯に肉薄した、塩野七生最後の歴史長編。
第1巻、第2巻に続く、「ギリシア人の物語・第3巻」。
完結篇にして、塩野七生最後の歴史ものとなるであろう一冊。
心して読みましょう。
それにしても感慨深いです。
30年以上前に「チェーザレ・ボルジア あるいは優雅なる冷酷」を読んだ時の衝撃。
あの一冊で私は塩野七生とチェーザレ・ボルジアの虜になってしまいました。
この巻の主人公は、アレキサンダー大王(B.C.356〜323)。
ギリシアの僻地マケドニアに生まれながら、あれよあれよという間にギリシアを統一、ペルシアを征服、
そのまま東征し、10年足らずで現在のインド付近までを掌握、しかし病気のためわずか32歳で亡くなった・・・
と、高校の世界史では習いましたが、正直半信半疑だったのです。
普通に考えて、20代のアンチャンにそんなことできますか?
多少誇張やホラも入ってるんじゃ・・・いわゆる「盛ってる」んじゃ・・・と根拠もなく思ってましたがすみません、私が間違っておりました。
この本を読めば、アレキサンダーの東征がいかに成し遂げられたのかが手に取るように。
カイロネアの戦い、イッソスの会戦など、重要な戦闘は図解入りで詳しく解説、臨場感たっぷり。
世界征服を目指す人は必読です!
塩野七生、例によってアレキサンダーにぞっこん惚れ込んでおります。
ハンニバル、カエサルに続く「第3のアイドル」扱いですが、それでこそ血の通ったアレキサンダーが描けるというもの。
愛のこもった最高の雄姿を堪能しましょう。
優れた「リーダー論」でもあります。
「アレクサンドロスは、考えることはあっても、迷うことはなかった」(250ページ)
「アレクサンドロスほど、将と兵を差別しなかったトップもいなかった」(322ページ)
「食事も兵士と同じものを食べ、眠るのも、多くの陣幕を張る場所がないとなれば、将たちとも雑魚寝もOK」(364ページ)
砂漠を探検していた時のエピソード。
「夏の太陽の下では、持参の水もつきる。それでも全員は渇きに耐えながら、前進はつづけた。
一休みしていたとき、誰かが湧水を見つけた。といっても量はわずかで、全員の渇きを満たすまではできない。
それでも兵士たちは、その水を兜の中に貯めて、アレクサンドロスのところに持って行った。。
全員に分けたとしても、一滴も行き渡らなかったからである。せめて王だけは、と考えたのだろう。
若き王は、それを受け取った。だが見れば、兵たちはその彼をじっと見上げている。
アレクサンドロスは、手に持った兜をさかさまにした。中に入っていたわずかな水が、彼の足もとの砂を少しだけ黒く変えた。
何も言う必要はなかった。兵士たちも、言われないでも理解した。そのまま歩きはじめた王の後に、彼らも無言で続いた」 (407ページ)
・・・いやこれカッコ良すぎというか、出来すぎでしょ、ホンマかいな。
もしアレキサンダーが50歳まで生きていたら、歴史はどう変わっていただろうと考えると楽しいです。
たぶん中国までは来てたんじゃないでしょうか、春秋戦国時代真っ只中の中国にアレキサンダーが乗り込んで・・・さてさて?
日本にはどうだろうなあ、来たかなあ・・・。
それにしても塩野七生さま、長いことお疲れ様でした。
世界の歴史をいろいろ教えてくださってありがとうございました、感謝です。
ところで私、岩明均「ヒストリエ」という漫画も愛読しています。
これはアレキサンダーの書記を務めたエウメネスという人物が主人公。
アレキサンダーも出てきますが、2018年現在(10巻まで刊行)、アレキサンダーはまだ18歳くらい。
傑作コミックですが、先は長そうです。
(2018.01.30.)
これまでの塩野七生の記事
塩野七生/ローマ人の物語11「終わりの始まり」
塩野七生/ローマ人の物語 10「すべての道はローマに通ず」
塩野七生/ギリシア人の物語T 民主政のはじまり
塩野七生/ギリシア人の物語U 民主政の成熟と崩壊