塩野七生/ローマ人の物語11 「終わりの始まり」
(新潮社 2002年)





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塩野七生「ローマ人の物語 第11巻」
以前、第10巻をとりあげました。

この第11巻でおもに扱われるのは、「哲学者皇帝」として人気が高く、「五賢帝」の最後を飾るマルクス・アウレリウス(在位161〜180)と、
その息子ながら、まれに見る愚帝として評判の悪いコモドゥス(在位180〜192)です。
コモドゥスは、映画「グラディエイター」の悪役皇帝といえば、映画ファンのかたにはおなじみかも(私は未見)。
もっともこの映画、あたりまえですが史実とは全然異なっていて、単なるフィクションと割り切るべきだそうです。

従来の歴史書では、ローマ帝国の衰退は悪帝コモドゥスから始まるとされているそうですが、
著者は、前任のマルクス・アウレリウス帝の時代に、すでに衰退のきざしが垣間見られる、と説きます。
繁栄と栄華の絶頂に、すでに崩壊の種はまかれていたと。

過去の賢帝たちは、巨大なローマ帝国に見事な行政・軍事システムを完成させており、
マルクスの前任者アントニウス・ピウス帝は、その23年の在位中、ローマを一歩も出ることなく統治しました。
それでうまくいったのですから、まさしく完璧なシステムだったわけです。
「本社に集まってくる情報をもとに、本社に居続けながら多国籍企業を経営するトップ」(61ぺージ)というわけ。

つづくマルクス・アウレリウスも、聡明かつ公正で思慮深く、人望もありましたが、
じつは皇帝になるまでローマから一歩も出たことがありませんでした。
不幸なことにマルクスが皇帝になったとたん、東の隣国パルティアが戦争をしかけてきます。
長年の平和で戦闘勘がにぶっていたローマは緒戦で敗退し、平定に5年を要してしまいます。
息つく暇もなく、こんどは北方のゲルマン民族が、豊かなローマにひきよせられるように攻め込んできます。
47歳の皇帝マルクスは、ついに自ら陣頭指揮をとるため、ドナウ川流域の戦線に出陣、
残りの在位期間をゲルマン民族との戦争に明け暮れます。
そしてあと少しで敵を制圧できるというとき、前線基地のヴィンドボーナ(今のウィーン!)で、58歳の生涯を閉じます。
思索型で温厚、身体も弱かったという彼のような人が、戦時に皇帝をつとめざるを得なかったのは、なんだかかわいそうです。
いい人で、能力もあるのだけれど、妙に間が悪い人っているものですが(ヒキが弱い、と言うのでしょうか)、
マルクス・アウレリウス、まさにそれかもしれませんね。

それでもマルクスは、ゲルマン民族の平定をほぼ成し遂げたから偉いものですが、次のコモドゥスは確かにかなり問題あり。
もっとも彼も、もともと陽気で気のいい青年だったのに、19歳で帝位を継いだとたん実の姉に暗殺されそうになり、
すっかり疑心暗鬼、誰も信じられなくなってしまったという、ある意味かわいそうな人。
実力のある臣下を次々と抹殺してしまい、帝国を混迷におとしいれます。
(しかしマルクス、自身は名君だったけれど、子供たちの教育はなっとらんぞ!)
結局、風呂で愛人に刺し殺されるという情けない最後を遂げます(享年31歳)。

そしてローマ帝国は内乱の時代へ・・・
ドラマティックで盛りだくさんな巻でした。

(03.3.1.記)


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