塩野七生/ギリシア人の物語T 民主政のはじまり
(2015)



Amazon : ギリシア人の物語T 民主政のはじまり


古代ギリシアの民主政はいかにして生れ、いかに有効活用され、機能したのか。
その背後には少ない兵力で強大なペルシア帝国と戦わねばならない、苛酷きわまる戦争があった。
不朽の名作『ローマ人の物語』の塩野七生が、それ以前の世界を描く三部作第一弾!


ハードカバーで15冊にも及ぶ「ローマ人の物語」(全部読んだよ!)で有名な塩野七生が、
こんどはローマ以前の「古代ギリシア」を書きはじめたのは知っていましたが、このたび全3巻で完結したというので、まとめて読むことにしました。
読みながらしみじみ思いました。

 なぜもっと早く読まなかった! こんなに面白いものを!

塩野七生の筆にかかると、名前しか知らない歴史上の人物が、血の通った肉体を持ってくっきりと立ち上がってきます。
アテネ、スパルタ、ペルシアの体制というか国の性格の違いもわかりやすく描かれて納得納得。

第1巻は「民主政のはじまり」と題されていますが、むしろ「ペルシア戦記」と呼びたいです。
東方の超大国ペルシアの侵攻を、小さな都市国家の集合体ギリシアがいかに打ち破ったかが、映画のように面白く描かれます。
「ギリシア人三人が論争すれば政党が四つできる」と言われるほど議論好きで、まとまるのが苦手なギリシア人が、
こと対ペルシアに対しては一丸になって立ち向かってゆく様子は、なかなかに微笑ましい。
それにしても2500年以上昔の出来事が、これほどきちんと記録されているとは・・・・・・凄いことです。


第一次ペルシア戦役(BC490) アテネが主力のギリシア軍が、マラトンでペルシア軍を撃破。

第二次ペルシア戦役(BC480) スパルタ軍、テルモピュレーでペルシア軍相手に玉砕。
                 アテネを主力とするギリシャ軍、サラミスの海戦にてペルシャ軍を撃破。
         (BC479) スパルタを主力とするギリシア軍が、プラタイアでペルシア軍を撃破。

・・・と、歴史の教科書では簡単に片づけられてしまう「ペルシア戦争」ですが、
有名な「サラミスの海戦」では総勢20万のペルシア軍を、わずか2万のギリシア軍が鮮やかに打ち破ります!
その顛末がわかりやすく、かつドラマティックに記述され、まるでマジックを観ているよう。

 


 ペルシア(東方)は、「量」で圧倒するやり方で攻め込んできた。それをギリシア(西方)は、「質」で迎え撃ったのである。
 「質」といってもそれは、個々人の素質というより、市民全員の持つ資質まで活用しての、総合的な質を意味する。
 つまり、集めて活用する能力、と言ってもよい。 
(275ページ)

これによりエーゲ海におけるギリシアの覇権が確立、沿岸の都市国家が集まって「デロス同盟」を結成。
指導的立場となったアテネでは民主主義が発展してゆくと同時に権力闘争も渦を巻き・・・・・・第2巻につづきます。

(2018.01.07.)


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人間とは、偉大なことでもやれる一方で、どうしようもない愚かなこともやってしまう生き物なのである。
このやっかいな生き物である人間を、理性に目覚めさせようとして生まれたのが「哲学」だ。
反対に、人間の賢さも愚かさもひっくるめて、そのすべてを書いていくのが「歴史」である。
この二つが、ギリシア人の創造になったのも、偶然ではないのであった。

(345ページ、本書の結びの一節)


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