ブライアン・イーノ/アナザー・グリーン・ワールド  ビフォア・アンド・アフター・サイエンス
Brian Eno/ANOTHER GREEN WORLD  Before and After Science

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Tower : ANOTHER GREEN WORLD


梅雨の休日、曇り空です。
雲は低く垂れ込め、いまにも降りそうで降らないその境界をたゆたっている、どっちつかずの空模様。

小さな音でブライアン・イーノの古いアルバムを流しながらメダカ水槽(絶賛産卵中)をボーッと眺めていると自分がゆっくりダメになっていくようで幸せです。

 アナザー・グリーン・ワールド(1975)

 ビフォア・アンド・アフター・サイエンス(1977)


この2作はイーノがプログレッシブ・ロックからアンビエント・ミュージックへ転換する過渡期の作品。
ベクトルの異なる2種類の音楽が混ざりあって奇妙な化学反応を起こしています。
たとえば納豆にソースをかけたような、プリンにケチャップをかけたような・・・(気持ちわるい)。
でもその奇妙な味、はまると癖になるのです (え、なりたくないって?)。


まずはAnother Green World (もうひとつの緑の世界)・・・心の楽園に遊ぶ気分で聴きます。
1曲目の"Sky Saw"(空ののこぎり?)は、ポップなベースラインを反復しながらその上に変奏を構築する、一種のシャコンヌ(?)。
コード進行とビートはロックなのに形式はクラシックです。
ゆがんだノイズのような音、中盤にイーノのぶっきらぼうなボーカルがワンコーラスだけ登場、摩訶不思議なイーノ・ワールドにいきなり絡めとられます。



3曲目"St. Elmo's Fire"は、親しみやすいポップな曲ですが(・・・そうかあ?)、ロバート・フリップによるギター・ソロは現代音楽というか電子音楽風。




そして"Everythig Merges With The Night"(すべては夜に溶けて)の一抹の濁りを含んだ静謐さ。
フラットで愛想のないボーカルも、慣れると味があります。



全14曲中、9曲がインストルメンタルです。
最後の曲"Spirits Drifting"(さまよう魂)は、ほぼアンビエント・ミュージックと言ってもよいインストルメンタル。



どの曲も個性的で、イーノならではの奇妙な魅力を発散しています。
まあこんな変な音楽作る人ほかにいませんよね・・・・・・でも誰とも違う音楽を作るのって凡人にはできません。
しかも「人と違う音楽を作るぜ!」と意気込んで作ったのではなく、好きにやったら誰も聴いたことがないような曲ができちゃったって感じ、これが才能なんですね。

全体にエレクトリック・サウンドを多用していますが、45年たっても古びないというか現代音楽の古典(?)のような風格さえかもしだしています。


姉妹作であるBefore and After Science (科学以前、科学以後)にいってみましょう。

1曲目の"No One Receiving"(誰も受け取らない)は奇妙で単調なリズムが最初から最後まで繰り返され、ミニマル・ミュージックのような印象を与えます。
フィル・コリンズのドラムスが大活躍。
それにイーノの決して上手とは言えないボーカルがからみ、落ち着かない気持ちにさせられます。



3曲目"Kurt's Rejoiner"(クルトの再集合?)もベースの奇妙でユーモラスなリズムが一貫して繰り返されます。
そこに様々なサウンドや声がコラージュ風に絡みつき複雑で手の込んだ響きを形成しますが、仕上がりはむしろすっきり。
独創性が渦を巻きあふれ出しています、聴いても聴いても飽きない名曲です。



全10曲のうち前半はどちらかというとポップでロックな曲が主体 (普通の「ポップ」とはだいぶ違うけど)。
後半はのちのアンビエント・ミュージックに通じるような静かなナンバーが続きます。
たとえば8曲目の"By This River"のシンプルで謙虚な美しさ、いいなあこれ。



9曲目"Through Hollow Hands"はインストルメンタルで、ほぼアンビエント・ミュージック (ハロルド・バッドに捧げられています)。
ゆったりした動き、最小限の素材、心と共鳴するような深い響き。



ラストの"Spider And I"は、教会音楽というか讃美歌のような曲。



 蜘蛛と私は座って空を眺めている
 音のない世界で
 小さな蠅をとらえる網を編んでいる
 音のない世界のために
 私たちは朝眠り 
 彼方に去ってゆく船の夢を見る

・・・意味不明な歌詞がなんとも言えません。
不協和音や雑音は含まれず、パイプ・オルガンのように響くシンセサイザーが天上に昇ってゆきアルバムは閉じられます。


あらためて聴くと、40年以上も前のアルバムとは思えないほど刺激的で前衛的。
でも意外なほど聴きやすく、綺麗で楽しくもあります。
このアルバムの翌年、イーノはアンビエントの傑作「ミュージック・フォー・エアポーツ」を発表します。

(2020.06.06.)


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