マーカス・デュ・ソートイ/素数の音楽
(冨永 星:訳)
(新潮クレスト・ブックス 2005)



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むつかしいけど面白い

「素数」とは、1と自分自身以外に約数を持たない自然数。

 2、3、5、7、11、13、17、19、23、29、31、37、41、43、47、53、59、61、67、71、73、79・・・・

一見単純な数列に見えますが、その出現は実に気まぐれ、次にいつ素数が出てくるのかを予測するのはとても難しいです。
たとえば、素数である523の次の素数は、541。 その差は18です。
ところが、その次の素数は547、6しか離れていません。 ちなみに557、563、569、57 と続きます。

「数の原子」ともいうべき素数は、でたらめに並んでいるのか、それともなんらかの秩序が存在するのか?
数学者たちは「必ず法則が存在する、なけりゃウソだ」と信じて、数百年にわたる探求を重ねてきました。 

1792年、ガウスは、1からNまでの間に、素数がいくつくらい存在するかを推定する式を考案しました。
これは「素数定理」と呼ばれ、誤差はありましたが、素数に何らかの秩序があることの最初の発見でした。

以後、素数定理を修正し、誤差を減らし、本当の素数の個数を計算する式を求める数学者たちの苦闘が続いています。
大変ですね〜。
(残念ながら素数定理はいまのところ不十分かつ不完全で、概算にすぎないのだとか)

一方、19世紀の数学者リーマンは、素数の研究をしていて、オイラーが考案したゼータ関数という式

  \zeta(s)=1 + \frac{1}{2^s} + \frac{1}{3^s} + \frac{1}{4^s} + ... = \sum_{n=1}^\infty \frac{1}{n^s}(うへー、むつかしい・・・)

に着目しました。 この式のSに、いろんな数を入れて遊ぶと面白いんだそうで(し、信じられん・・・)
たとえばSに1を入れると、ゼータ関数は(1 + 1/2 + 1/3 + 1/4 +・・・1/N)という級数になって、
これはゆっくりではあるけれど無限に大きくなっていくのだそうです。
ではS=2を入れたらどうなるかというと、これは無限に大きくならず(収束する、という)、最終的にπ2/6になるんだそうです。
  (1 + 1/4 + 1/9 + 1/16 +1/25・・・)=π2/6
円はどこにもないのに、なぜ円周率πが出てくるのかとっても不思議です。 数の神秘ですねえ。


さて前置きはこれくらいにして (ここまで前置きかい!!)、
リーマンは、ゼータ関数に関して「リーマン予想」というものを残しました。
Sに複素数(「実数+虚数」の数)を入れると、ゼータ関数がゼロになってしまう場合がたくさんあるのだけど (のちに無数にあることがわかる)、
そのときのSの実数部分は必ず1/2だよ、という予想です。

それがどうした、と言いたくなるような話ですが、実はこれはもんのすごく重要なことで、数学上最大の未解決問題
これが証明されれば、素数に秩序があることが確実になり、量子物理学と数論との間に関係があることも証明され、
ネットショッピングに欠かせない数字の暗号化にも多大な影響があるそうです。
現代の数学は、すでにリーマン予想が正しい事を前提に組み上げられていて、
「リーマン予想が真であるならば」で始まる定理は数百を優に超えているのだとか。
今さら「いや〜、じつはアレ、違うとりましてん」なんてことになったら、大変なわけです。

この本は、「リーマン予想」の歴史と、それを研究してきた幾多の数学者たちの物語。
以前ご紹介した、サイモン・シン「フェルマーの最終定理」 「暗号解読」 ホフマン「放浪の天才数学者エルデシュ」
などと登場人物が共通していて、あわせて読み返すとさらに興味深かったです。
数学のことがわからなくても大丈夫、私もほとんどわかりません。
(この文章書くのにどれほど苦労したことか・・・脳みそが沸騰して耳から煙が出そうになっただよ)
小川洋子「博士の愛した数式」が面白く読めた人ならきっと楽しめます。

なお、「リーマン予想」には現在、賞金がかけられています。
完璧に証明した人にはクレイ社から100万ドルが贈られるそうです。

(06.2.18.)


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