サイモン・シン/フェルマーの最終定理(新潮社、2000年)

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Amazon.co.jp : フェルマーの最終定理(文庫版)


めちゃめちゃ興奮したとです!!
350年にわたり証明を拒んできた数学の最難問が解決されるまでを描いたノンフィクション。

17世紀の偉大な数学者・ピエール・ド・フェルマーは、愛読書であるディオファントス「算術」の余白に
自分が発見したさまざまな「定理」を書き込んでいました。
そのなかのひとつが、「フェルマーの最終定理」と呼ばれるもの。
なぜ「最終」かと言えば、フェルマーが書き込んだほかの定理はすべて後の数学者達が証明したからです。

 n ≧ 3 である整数 n に対し、 xn + yn = zn を満たす自然数の組 x, y, z は存在しない。
  私はこの命題の真に驚くべき証明を持っているが、余白が狭すぎるのでここに書くことはできない」

その起源をさかのぼれば、誰もが中学で苦しんだ「ピタゴラスの直角三角形の定理」にたどりつくこの問題。
350年の間、数多くの数学者達がこの証明に挑戦しては敗れ去ってゆきました。
フェルマーにかかわってしまったがために、ほとんど業績を残せないまま消えていった天才・秀才もいたことでしょう。
しかし1993年、アンドリュー・ワイルズというイギリス人の数学者が、
自宅の屋根裏部屋にこもっての7年に及ぶ苦闘の末、ついに証明に成功、
問題に終止符を打ちました。

「わあ、数学、苦手! むつかしい〜!」という方も多いとは思いますが、なんと、数学がわからなくてもこの本は楽しめます。
私自身わりとよく理解できたので、「ボクってひょっとして頭イイ〜」と浮かれながら読んだのですが、
読み終わってネット上の感想をあちこちで見ると、「最高にわかりやすい、面白い数学本!」と絶賛の嵐。
どうやら私の頭が良いわけではなくて、高等数学をここまでわかりやすく書いたサイモン・シンが偉いってことみたいですな。

血沸き肉踊る数学者達のドラマが詰め込まれていて、並みの小説よりはるかに面白いです。
だいたいフェルマー自身、とんでもない性格の悪いじいさんで、
当時の名だたる数学者に、「ワシはこんな新しい定理を証明したぞ。おぬしに証明できるかな?」と、
手紙を送りつけては喜んでいた人物。
パスカルとともに確率論の生みの親となったり、ニュートンに先立ち微積分の概念を得るなど、
数々の業績をあげたものの、名誉には興味を示さず著書も残さなかった偏屈者(でもなんかカッコいい)

ほかにも様々な天才数学者が登場。
たとえば、「群論」という新しいジャンルを切り開いた天才でありながら、なかなか認められない不満もあって、
急進的な共和主義運動に走ったあげく、20歳の命を散らしてしまうエヴァリスト・ガロワ

「すべての楕円方程式はモジュラー形式と関係づけられる」(意味はわかりませんが綺麗なフレーズだ)
という「予想」を残し、31歳で自殺した谷山豊
彼の予想を補強し「谷山・志村の予想」として数学界に広めたその親友・志村五郎

かれら悲劇の天才達の仕事が、ワイルズによって見事に統合され、フェルマー定理はついに証明されます。

なんだか、先人が残した「伝説の武器」の数々をフル装備した勇者が、
それらを駆使して、最強のドラゴンを退治する、みたいな流れですなあ。
ついでに言うと、ワイルズが最後の天才的閃きによってすべてを解決した瞬間って、
ミステリの名探偵が難事件の真相を見通した時と同じノリでした。

ところで、ワイルズの証明は200ページに及ぶ大論文らしいですが(いくら「余白」があっても無理でしょフェルマー先生)
ふと思うのは「もっと簡単で、短くて、エレガントな証明は、ホントにないの?」(・・・ないんでしょうね、やっぱり)
それと結局フェルマー自身は、きちんと証明できてなかったんですね(ですよね?)

しかし、10年前にこんな「大事件」が起こっていたなんて知りませんでした。
まあ、フェルマー定理が証明されても、われわれ一般人の生活には何の関係もないことですから当然か。
この問題は純粋なゲーム、数学界が350年楽しんできたパズルでした。
そのパズルを解く喜びのみならず、解かれてしまったあとの一抹の寂しさまでを素人にもわかるように書いてくれた
著者のサイモン・シンと訳者の青木薫氏に感謝を。
(03.6.15.記)


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