カーター・ディクスン/貴婦人として死す(1943)
Carter Dickson/She Died a Lady
(高沢治・訳 創元推理文庫 2016)



Amazon.co.jp : 貴婦人として死す (創元推理文庫)


戦時下イギリスの片隅で一大醜聞が村人の耳目を集めた。
俳優の卵と人妻が姿を消し、二日後に遺体となって打ち上げられたのだ。
村の老医師ルークは心中説を否定、二人は殺害されたと考え、得られた情報を手記に綴っていく。
やがて、ヘンリ・メリヴェール卿という奇妙な老人が現れ、事態をさらに引っ掻き回すことに・・・。


これは傑作!


カーター・ディクスン(ジョン・ディクソン・カー)の、それほど知られているとは言えない作品。

 「貴婦人として死す」(She Died a Lady,1943)

なにこれ傑作じゃないですか!

カー得意の怪奇趣味・オカルト趣味を排し、すっきり読みやすく、クリスティに近い味わいがあります。
そういえば「医師が殺人事件の手記を書く」といえば、クリスティのアレがありますけど、オチは全然違います。
語り手である引退した老医師、いい味出してます、というか滅茶苦茶いい人ですね。
穏やかで物静かながら一本気で正義感あふれるところが好感もてます。
逆に被害者たちがそれほど同情できないのもポイントで、心置きなく(?)読み進められます。

ヘンリー・メリヴェール卿は、しっかりドタバタしてくれますが、今回は足を骨折しての登場ということでややおとなしい。
電動車椅子(当時すでにあったんだ)で暴走して酒場に突っ込んだり崖から落ちそうになる程度です。
・・・やっぱりそれほどおとなしくないか。

メインの足跡トリックはシンプルで効果的。
犯人は超意外で、これはちょっと絶対わからんだろレベル。
しかし、H・M卿の説明を聞くとなんとなくまるめこまれる 納得できてしまうギリギリ絶妙なラインであり、
生涯にわたって「意外な犯人」にこだわったカーの面目躍如です。
細かい伏線も丁寧に回収して、抜かりはありません。

第二次世界大戦真っ最中に書かれた作品であり、戦争はしっかり影を落としています。
本作品発表時はまだ戦争の帰趨はわからなかったんだと思いながら読むと、味わい深いです。

他に何冊か同時進行で読んでる本もあったんですが、なんとなく手に取って読み始めたらそのまま一気読み。
上品なタイトルもいいですね。

{2016.03.19)

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