カーター・ディクスン/読者よ欺かるるなかれ(1939年)
(ハヤカワ文庫・2002年)
カーター・ディクソン(ディクソン・カー)の、名前のみ有名だった幻の作品が、文庫で再登場。
昭和30年代にハヤカワ・ポケット・ミステリで出たものの、永らく品切れで入手困難だった一作です。
しかし凄いタイトルですね。原題は、”The Reader Is Warned" なのですが、うまい訳です。
女流作家マイナ・コンスタブルは、読心術師ハーマン・ペニイクにいれあげていた。
彼女の自宅に友人達が招かれ、夕食会が開かれる。
夕食前からペニイクは招待客たちの考えていることを次々に的中させ、
さらにマイナの夫サムが夕食までに死ぬだろうと予言する。
はたしてサムは、食堂に向かおうとする階段上で、突如苦しみだし死んでしまう。
ペニイクは、自分が「テレフォース(念力)」でサムを殺したのだと平然と告白する。
しかしマスターズ警部も、ヘンリー・メルヴィル卿も、
念力で人を殺したなどと主張する男を、とても逮捕することはできない・・・。
微妙・・・。
いやあ〜、カーですねえ。とにかくカーでございます。
犯罪の不可能性、全編を覆うオカルト趣味、にもかかわらず軽いノリ、これぞカーです。
この作品、「念力による殺人?」という不可能犯罪でぐいぐい読者を引っ張ってくれます。
最後で明かされる真相は、ちょっとだけトホホなものだったりもしますし、
あまりにも偶然に頼りすぎの犯罪計画じゃん、と思ったりもしますが、
そんなところもひっくるめて、カーなのです。
あと、クライマックスで犯人が、これから殺そうとする人物を前にして、
自分の犯罪のトリックをとうとうと説明するシーンがあって、
思わず「土曜サスペンス劇場かい!」と突っ込みを入れるしかありません。
(さすがに場所は断崖絶壁ではなかったですが・・・)。
あと、今回のメルヴィル卿はあまり破天荒なところがなくて、きちんとした「名探偵」然としていました。。
もう少しハチャメチャやってくれるほうが好みなんですが・・・
とにかく、長いこと読みたかった作品が読めて(いちおう)満足です。
ミステリとしての出来は、カーとしては中の中でしょうか。
カーとメルヴィル卿の世界に、ある程度なじんでいる方でないと、ちょっと戸惑うかも。
(02.5.5.記)