ジョン・ディクスン・カー/火刑法廷(1937)
(ハヤカワ文庫)



Amazon.co.jp : 火刑法廷


69編もの長編を残したミステリの巨匠、ジョン・ディクスン・カー
私は今までに20編ほど読みましたが、
「その中でいちばん印象に残ったのは?」と訊かれたら、迷わず「火刑法廷」を挙げます。

<ストーリー>
編集者エドワード・スティーヴンスは、通勤列車の中で、ある作家の犯罪実話の新作原稿を読んで愕然とします。
原稿に添えられていた、70年前に処刑された毒殺犯人、マリー・ドーブリーの写真が、
エドワードの愛妻マリーに生き写しだったのです。 おまけに妻の旧姓もドーブリー!
混乱しつつ自宅に戻ったエドワードを、隣家の若主人マーク・デスパードがたずねてきます。
隣家ではマークの伯父・マイルズが2週間前に病死したばかり。
マークは、伯父はじつは毒殺されたのではないかと疑っていて、これから遺体を掘り出そうというのです。
頼まれて、しぶしぶ墓堀りを手伝うエドワード。
ところが驚いたことに、苦労して掘り出したマイルズ伯父の棺の中はもぬけのから、からっぽだったのです・・・。


カーといえば、オカルト趣味の本格推理というのがトレードマークになっていますが、
この作品にも、最初から最後まで超自然の雰囲気がたちこめています。
実はデスパード家は、17世紀に有名な毒殺魔・ブランヴィリエ侯爵夫人を逮捕した男の末裔であるという因縁話がバックにあって、
死んでもまたよみがえる「不死の人間」伝説や、
マイルズ伯父が死んだ夜、家政婦が目撃した謎の貴婦人の存在、
(その婦人は壁の中へ歩いて姿を消してしまったというおまけつき)、
そして埋葬したはずの遺体の消失など、怪談めいた話がてんこもり。

「これってミステリじゃなくて、ホラー小説じゃないかー?!」と叫びたくなってくるころ、
物語も4分の3を過ぎたあたりでやっと探偵役が登場します。
この探偵さんが、数々の摩訶不思議な出来事に、すぱっすぱっと論理的な説明をつけていくところは、
古今のミステリの中でも屈指の「謎解きの快感」を与えてくれる名解決場面。
そして意外な毒殺犯人が指摘され、エピローグへ。

で、じつはじつは・・・このエピローグこそ、本作品のクライマックスなのです。
このわずか5ページ足らずのエピローグを書くために、カーはこの長編を書いたと言っても良いと思います。
初めてこれを読んだとき、自分の足元の地面がくずれるような崩壊感を覚えたことは忘れられません。
そして必ず最初からもう一度読み返したくなります。
するとさっき読んだばかりの物語が、全く別の小説として読めてしまう、じつに不思議な気分を味わうことができます。
この作品にヘンリー・メルヴィル卿やフェル博士などのレギュラー探偵を使わなかった理由も納得がいきます。

巨匠カーが、持てる技巧のすべてを注ぎ込んで完成させた、ミステリ史上に妖しい光を放つ永遠の傑作です。
できれば何の予備知識もなしに読んで、驚いていただきたいものですが・・・ (ならこんな紹介するなっ!!と言われそうですね)
(02.12.6.記)



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