山川直人/日常の椅子〜菅原克己の風景
(ビレッジプレス 2016年)




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チェロのレッスンで、最近よく指摘されるのが「オモテ」「ウラ」
表拍は強く、裏拍は弱く弾くのが基本であり、それを意識しながら演奏するように言われます。

 これがむつかしい!

音楽に自然なアーティキュレーションをつけるための第一歩なのですが、
私はオモテウラのない人間なのか、すぐ頭からすっ飛んでしまい、平板な演奏になってしまいます。
ほかにも音の切り方・つなげ方も大きな課題。
いま弾いてる音を次の音にどうつなぐのか、フレーズの流れを考えながら弾かねばなりません。

 ・・・ぐったり。

一時間のレッスンが終わると午後9時。
チェロを背負って、ひっそりとした住宅街を、車を止めてある駅前駐車場までトコトコ歩いていると、山川直人の漫画の登場人物になった気分。

山川直人といえば、ずっと以前「コーヒーもう一杯」をご紹介したことがあります。
個性的な絵柄、懐かしく抒情的で、ちょっぴり物悲しい作品世界がとっても魅力的。
単行本が出れば必ず買う作家さんの一人ですが、正直「最近ちょっとマンネリかな」と思っていました。

しかし、今年刊行された 「日常の椅子〜菅原克己の風景」 には久々に新鮮な感動をおぼえました。
これは詩人・菅原克己(1911〜1988)の詩から13編を選んでコミック化したもの。
菅原克己という人が、詩の世界でどれほど有名なのかは知りませんが、
やさしい言葉で小さな日常を描きながら、深いものを感じさせてくれる、素敵な詩人です。

山川直人が菅原克己を知ったのは、フォークシンガーの高田渡「ブラザー軒」という詩に曲を付けたものを聴いたのがきっかけだそうです。
たしかにこれはすばらしい。

 高田渡:ブラザー軒
 

山川直人「ブラザー軒」も、高田渡に負けない完成度で、いい年をして思わず涙ぐんでしまいました(いや、お恥ずかしい)。
他の作品もすべて詩と漫画が絶妙にマッチして昇華され、純度の高い芸術作品です。

 

なお「ブラザー軒」ハンバート・ハンバートのバージョンも素晴らしいです。
シンプルで透明な浮遊感に吸い込まれるようです。

 

菅原克己は、平易な言葉で市井の人の小さな暮らしを描く詩人。
私の好きな詩人・吉野弘を連想します。
気骨のある人であったようで、巻末の略歴漫画によると、大学時代にストをして特高に逮捕されたり、
共産党に入って「赤旗」の編集に携わったり、活動のため警察に逮捕されたりしたそうです。
しかも1961年には共産党の方針に疑問を感じて党本部に意見書を提出、その結果、党を除名処分に。
ふだんは物静かですが、心に熱いものを秘めた人物を想像します、カッコイイじゃないかこの人。

何度でも読み返したくなる一冊です。

(2016.9.19.)


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(買おうかどうか思案中)


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