山川直人/はなうたレコード
(平凡社 2021年)



Amazon : はなうたレコード


喫茶店、古本屋、骨董屋、中古レコード屋・・・
どこか懐かしい店が集う小さな町で、売れない漫画家・豆太と恋人・きな子が奏でるささやかな恋愛模様。



山川直人「はなうたレコード」

できるならリアル書店で買いたかったので近所の紀伊國屋に予約、発売日に取りに行ったら

 「でかっ!」

漫画には珍しくA5版サイズでした。
絵も文字も大きくて読みやすく、とってもありがたかったです。
最近文庫本サイズの漫画は読めなくなってきたからなあ(←年寄り)。

もちろん内容も最高でした!

 

 

「コーヒーもう一杯」から登場していた売れない漫画家の豆太、十数年たったら可愛い恋人ができてたんですね(全然年とってないけどね)。
二人が暮らす街には、レトロな喫茶店、おじいさん店主のいる古本屋、中古レコード店に骨董屋などがあり、懐かしい雰囲気が漂います。
スマホ使ってるので昭和ではなくいちおう21世紀みたいです。
「ハモニカ銀座商店街」があるので、「ハモニカ文庫」と同じ街のようですが(吉祥寺?)喫茶「ユモレスク」はありません。
かわりに喫茶「ストラダ」があって、きな子はそこでバイトしています。

豆太はLPレコードで古いアルバムを聴くのが好き。
作中には懐かしの名盤のジャケットがいろいろ登場、人物の顔が豆太ときな子になってたりして楽しいです。
YMOの「ソリッド・ステイト・サバイバー」、サディスティック・ミカ・バンドの「黒船」、シュガーベイブの「SONGS」、ビートルズの「ラバーソウル」・・・。

先ごろ出た「短編文藝漫画集」が、不条理と妄想と悪夢を描いて仄暗い魅力を発散していたのと対照的に徹頭徹尾おだやかかつ平穏無事。
「シアワセ行進曲」「ハモニカ文庫」「道草日和」などに通じる安定の山川直人ワールド(というか「シアワセ行進曲」はこの作品のプロトタイプと言えますね)。
波乱万丈のストーリーはなく、淡々とした日常の心地よさに身を委ねる幸福。
悪い人はいないし、大きな事件もない、ついでにお金もないけれど、静かでやさしい世界です。
これぞユートピア、桃源郷、シャングリラ・・・、現実にこのような世界は存在しないからこそ見果てぬあこがれに心が遊びます。

(2021.06.06.)


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