山川直人/短編文藝漫画集
(水窓出版 2021年)




Amazon : 山川直人/短篇文藝漫画集 機械・猫町・東京だより


新刊が出たら必ず買うことにしている漫画家さんの一人、山川直人の最新作。

 短編文藝漫画集

これまでにも芥川龍之介の生涯を漫画家に置き換えた作品や、菅原克己の詩を漫画化した作品など、「文学寄り」スタンスの漫画家さんですが、
今回は昭和を代表する文豪、横光利一「機械」、萩原朔太郎「猫町」、太宰治「東京だより」の3編をコミカライズ。

「機械」はかつて原作を読んだことがあるものの、当時は「なんかよくわからん・・・」としか思えませんでした(←読解力なし)。
なんでも「機械のように連動する複雑な人間心理の絡み合いが精緻に描かれ」た傑作であり、
「純粋な結晶のやうに隙がなく、人間が作中で運命のやうに生きて行く」小説なのだそうです (by Wikipedia)。

 ・・・やっぱりよくわかりません。

しかし今回、山川直人の漫画を読んで「こういう話だったのか!」とはじめて腑に落ちました。
不条理で不気味で謎めいたストーリーを、版画のようなデフォルメされた絵で語るとこういう面白いことになるのですね。

 


「猫町」は、田舎の温泉地で迷子になった朔太郎が不思議な街に迷い込んでしまうお話。
当時朔太郎はモルヒネやコカインを使用していたそうです(作品中にも書いてある)。
アブナイ薬による幻覚も詩的で美麗な文章で語られると立派な文学作品になるんですね("Lucy in the Sky with Diamond"を連想)。
それに山川直人の絵が加わると、文章のイメージが具象化され作品世界に抵抗なく入っていけます。、
とくに猫の無表情な不気味さは迫力満点、圧倒的にして魅力的です。
「可愛らしいだけの猫マンガは飽きた」方にオススメ。
なお原文も収録されているので、そちらを読んで自分なりのイメージを膨らませるのも一興。

 


「東京だより」は戦時中(昭和19年)に書かれたエッセイ風の短編。
学徒動員され工場で働く女学生たち、その中で異彩を放つひとりの少女に忘れらない印象を受ける話で、太宰らしいデカダンスや斜に構えた感じはありません。

 「全部をお上に捧げ切ると、お国のために精出していると、人間は顔の特徴も年恰好も綺麗に失ってしまうものかも知れません」

全体主義的な社会に居心地の悪さを感じる太宰の感受性が光りますが、戦時中にこんなこと書いて大丈夫だったんでしょうか。

 

山川直人の絵は一見素朴ですが、バックの掛け網も全て手描きという緻密さで、見れば見るほど味があります (スクリーントーンは使いません)。
全体に漂うレトロで物悲しい空気は独特で、はまると癖になります、定期的に読まないと冷や汗が出て手が震えるようになります(←嘘)。

漫画には珍しく函入りの美しい本で、コレクターの所有欲をそそられます。
買ったものの、ただいま我が家の本棚は収納力の限界を超えてあふれかえっている状況、困ったものです。
どうして本って勝手に増えるんでしょうか?

なお山川直人の新刊はまもなくもう1冊出る予定です(ひええ)。

(2021.05.09.)


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