山川直人/シリーズ「小さな喫茶店」(全4冊)
(ビームコミックス 2015〜18)

一杯の珈琲から(小さな喫茶店) 珈琲色に夜は更けて(小さな喫茶店) 珈琲桟敷の人々(小さな喫茶店) 月と珈琲、電信柱(小さな喫茶店)


毎朝、豆をひいてコーヒーを淹れる習慣をかれこれ20年以上続けています。
私の一日はコーヒーが無いと始まりません。
いつの間にか、ニョウボもすっかりコーヒー好きに。

淹れ方はペーパーフィルター、飲みかたはブラックで、途中からちょっとだけ牛乳を足します。
ずっと頑固にカリタのダイヤル式ミルを使っていますが、最近しんどくなってきました。
急いで挽いたら手首を痛めたなんて話を聞くとちょっと怖くなって、電動ミルが気になる今日このごろです。

豆は、主に近所の古い小さな喫茶店で買いますが、
出先で良さそうなコーヒー・ショップを見つけると、試しに買ってみるなど浮気もしております。
あたりまえですが店によって味が違っていとをかしです。

ここ数年で「酒量」はずいぶん減った私ですが、「珈琲量」はむしろ少し増えているかも。

そんな私にとって、「猫にマタタビ」ともいえるコミックが、山川直人の一連の作品。
とくに、コーヒーを小道具というか狂言回しにした不朽の傑作短編集「コーヒーもう一杯」(2005〜09)は座右の愛読書。
たまに読み返していて、ふと気がつくとミルをガリガリ回してたりします。

 「はっ、俺は今まで一体何を・・・?」

結局コーヒー淹れて飲んじゃいます、いやあ困ったもんです(←あまり困ってない)。

「コーヒーもう一杯」が2009年に完結し、寂しく思っていたら、2015年から続編的な作品が始まりました。


 山川直人/シリーズ「小さな喫茶店」

 

絵柄はごらんのように個性的、シンプルにデフォルメされた人物と、緻密に書き込まれた背景の対照が特徴的です。
基本的にスクリーントーンは使わず、すべて手描き。
ほの暗い空気感がじつに素敵です。
高密度に書き込まれたテーブルの木目の美しさ、間の詰んだ手描きのカケアミで表現される壁や床の質感・・・。

登場人物は「コーヒーもう一杯」と一部共通してます。
あの暖かく懐かしい世界をふたたび味わえるのは嬉しい限り。
淡々としながらも、シュールでメルヘンティックでほろ苦いストーリーが多いのですが、
どのエピソードも味わい深く多彩で、ストーリーテリングの妙をたっぷり味わえます。
愛感漂う大人のおとぎ話ですが、それほどセンチメンタルではありません(ハッピーエンドの話もありますよ)。
ところどころに、文学や音楽への目配せがあるのも楽しいです(下の引用ページでは三島由紀夫の「近代能楽集」なんて読んでる!)。

 

最後になるほど文学的な味わいは強まり、第4巻では純文学の掌編を漫画化したみたいな作品や、尾形亀之助の詩に絵を付けた作品も登場します。

出てくる喫茶店の名前も良いですねえ。
「珈琲屋ブランキ」「珈琲亭くらむぼん」「喫茶どんぐり」「喫茶室・間奏曲」「COFFEE ロルカ」・・・懐かしい香りがします。
コンビニの珈琲もずいぶん美味しくなったけど、昔ながらの喫茶店に漂う琥珀色のオーラも捨てがたいです。

シリーズ「小さな喫茶店」は、全4冊でいちおう完結。
こんどは何を描いてくれるのでしょうか、新作が楽しみです。

(2018.06.26.)

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