テレマン/12のメトーディッシェ・ソナタ集
(ボストン・ミュージアム三重奏団、フランス・ブリュッヘン、アンナー・ビルスマ、グスタフ・レオンハルト、ハン・デ・フリースほか 1982録音)



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その昔、私をバロック音楽の沼に引きずり込んでくれやがった名盤のひとつ。
おかげでいまだに沼の底のほうをはいずり回っています。
そ、底なし沼ですよこれ〜。

 テレマン/12のメトーディッシェ・ソナタ集 (1728)

「メトーディッシェ・ソナタ」は「装飾例つきソナタ」と訳され、変奏・装飾のテクニックを身につけるため、普通の楽譜とともに、作曲者自身が変奏・装飾の例を併記してあります。
これによって、アマチュア奏者が変奏・装飾のコツを身につけるようにという、一種の練習曲集ですね。
アイデアマンで商売人、テレマンの面目躍如。
それでいて練習曲的な無味乾燥さはみじんもなく、優美で洗練された曲ばかりなのは、やっぱり天才です。

 

一段目が普通の楽譜、二段目が装飾例つきで、当時の演奏習慣を知る上でも貴重な資料なのだそうです。
つーか、プロの奏者は一段目を見て二段目のように演奏してたってこと?
ほとんどアドリブじゃないですか!
昔の音楽の先生は「楽譜に忠実に」なんて、決して言わなかったんでしょうね。

弾くほうは大変でしょうが、聴くほうは優しく包み込むような音の流れに身を任せるのみ。
心地よい時間が静かに流れます。

なお楽譜に楽器指定はありません。
そのため本CDではじつに興味深いことに3つの団体が4曲ずつ演奏しています。

ボストン・ミュージアム三重奏団はヴァイオリン、ヴィオラ・ダ・ガンバ、チェンバロの三重奏。

 ソナタ第1番 第1楽章 アダージョ (安らぐ・・・)
 

フランス・ブリュッヘンのリコーダー、アネル・ビルスマのチェロ、グスタフ・レオンハルトのチェンバロという20世紀古楽界を代表する黄金トリオは貫禄の横綱相撲。
さすがの手練れたちです。

 ソナタ第2番 第2楽章 ヴィヴァーチェ (ブリュッヘンのリコ−ダーのふくよかな音色!)
 

ハン・デ・フリースのオーボエをウォウター・メラーのチェロとボブ・ファン・アスペレンのチェンバロが支えるアンサンブルは一世代後輩。
「負けませんよ先輩!」とばかりに颯爽としたシャープな演奏を繰り広げます。

 ソナタ第6番 第1楽章 アレグロ (オーボエの音、好きだなあ)
 

3種類のアンサンブルが代わる代わる登場、互いの対抗意識も感じられ、聴いていて退屈しません。
制作費とギャラを考えると、現代では絶対に不可能な企画ではないかと。
どのチームの演奏も洗練のきわみ、300年前の音楽をお洒落に解放します。
サラリと揺れるメランコリー、柔らかなエレガンス、楚々として色っぽいデリカシー。
バロック・ソナタの傑作アルバムとして現在も輝きを失わない名盤です。

(2024.07.13.)


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