前橋汀子/私のヴァイオリン
(早川書房 2017年)



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日本を代表するヴァイオリニスト、前橋汀子(1943〜)の回想録。

むしろ今まで出ていなかったことが驚きです。
日本を代表するピアニスト・中村紘子は、本を何冊も出しましたから、
日本を代表するヴァイオリニスト・前橋汀子もエッセイ集・回想録の5冊や6冊とっくに出してると思ったら、なんとこれが初めての著書なんだとか。
演奏活動55周年記念出版なのだそうです。

もう一つ驚いたのは、音楽之友社じゃなくて早川書房から出版されたこと。
これミステリでもSFでもないですよね?
まあどこから出ようが、私は発売日に本屋に走って買うわけですが。

内容は、自己のヴァイオリン歴を淡々と語るのみ・・・と言ってしまえばそれまで。
しかし、やっぱりこの方凄いです。

4歳から、ロシア貴族の血を引く小野アンナについてヴァイオリンをはじめ、小学6年生の時、来日したオイストラフの演奏に心奪われます。
冷戦真っ只中の1961年、若干18歳で単身ソ連のレニングラード音楽院に留学(桐朋学園高校を中退してまで!)。
3年後に帰国し、ロン・ティボー・コンクールで3位入賞。
その後アメリカのジュリアード音楽院にまた留学、ドロシー・ディレイ、ロバート・マン(ジュリアード四重奏団の第1Vn)に師事。
そのままアメリカでプロのソリストとしてデビュー。
数年後にヨーロッパに渡り、スイスのモントルーを拠点に演奏活動しながら ヨーゼフ・シゲティ、ナタン・ミルシティンに師事、10年におよぶスイス暮らしののちに帰国。
(つまり日本の音大には行ってないんですね、この人)

世界を股にかけたエネルギッシュな仕事ぶり研鑽ぶりに頭が下がります。
というか音楽に憑りつかれてますね。
上手くなるためなら地球の果てにだって行くのでしょうね、この人は。

「前橋流」と言うしかないあの独特の演奏スタイルは、様々な師匠から学んだものを自分なりにブレンドし昇華した結果なのだと思いました。


1999年に事故死した妹さんのことも触れられています。
伴奏ピアニストとして、姉妹で息の合った演奏を聴かせてくれていました。
当時新聞で読んでびっくり仰天するとともにとても悲しかったことを思い出しました。

私はそれほど熱心なコンサートゴアーではありませんが、生で聴いた回数が一番多いヴァイオリニストはたぶん前橋汀子(十数回は聴いているかと)。
当時住んでた徳島市にほぼ毎年来てくれてました、田舎なのに有難いことです(労音のコンサートでした)。
あと、N響の地方公演とかに行くと、けっこうな頻度で前橋汀子の弾くメンデルスゾーンやチャイコフスキーの協奏曲を聴けました。
「なんつう綺麗な人だ〜」と見とれながら夢見心地で聴いたもんです、30年も前の話です。
フレーズの弾き終わりに、弓を持った右腕を大きくぐるんと回すジェスチュア、印象的で格好良かったな。

なお前橋汀子のCDでは、バッハの無伴奏がサイコーに素晴らしい名盤だと思います。
あと「チゴイネルワイゼン」というタイトルの名曲集は、妖艶で蠱惑的な音色と、テンション高い挑みかかるような表現に圧倒されます。
いつまでもお元気で演奏を続けてほしいものです。

(2017.9.5.)

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