前橋汀子/チゴイネルワイゼン
(1982録音)



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Tower@jp : 前橋汀子/チゴイネルワイゼン

<曲目>
サン=サーンス/序奏とロンド・カプリチオーソ、ハバネラ
マスネ/タイスの瞑想曲
ベートーヴェン/ロマンス第2番
サラサーテ/チゴイネルワイゼン


親分:前橋汀子(1943〜)のアルバムで一番好きなのは「バッハ/無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ」だが、
  二番目に好きなのは「チゴイネルワイゼン」なんだ。

ガラッ八:それにしても、いかにも「ヴァイオリン名曲集」って感じのベタベタな選曲でやんすね。

親分:これぞ前橋汀子の魅力を最大限に引き出す選曲だよ。
  したたるほどに艶のある、シュガー・コーティングされた魅惑の音色が映える曲たちだ。

ガラッ八:つまりロマンティックな作品ばかりってことで?

親分:そういうこと。
  ただし音は甘いが演奏はハイテンションなのが前橋汀子
  全身全霊を捧げるというか、曲と心中しそうなほどの完全燃焼パフォーマンスに火傷しそうになる。

ガラッ八:そ、そこまで熱い演奏なんで。

親分:ちょっと盛っちゃったかな・・・・・・実はこれ、前橋汀子のデビュー・アルバムなんだ。

ガラッ八:へえ、でもこのときすでに四十歳近いですよね。

親分:十八歳でレニングラード音楽院に留学、その後アメリカのジュリアード音楽院、スイスのモントルーを渡り歩きつつ
  二十歳ごろからプロ・ヴァオリニストとしてバリバリ活動していたものの、録音にはきわめて慎重だった前橋汀子が、
  満を持して、練りに練って、選びに選んで発表した自信作だ。
  十代二十代の若手とは違う、円熟と手練れの技を味わってくれ。
  ちなみにジャケット写真は篠山紀信の撮影。

ガラッ八:そりゃお金かかってますねー。 景気のいい時代ですねー。

親分:1曲目、サン=サーンス「序奏とロンド・カプリチオ―ソ」の序奏部のつんと澄ました表情、
  ロンドに入ってからの挑みかかるような低音、ブリリアントな高音、蠱惑的なポルタメント。
  「ロン・カプ」演奏を「色っぽさ」で番付したら、かなり上位に来るんじゃないか。

ガラッ八:うーん、ロマンティックがダダ漏れでやんす〜。

親分:今の日本の若手ヴァイオリニストは良くも悪くも楽譜通り正確というか、あっさりというか、古楽ブームの影響もあってヴィブラートも少なめだったりするから、
  前橋汀子の表情豊かな演奏はかえって新鮮だ。

ガラッ八:自由度が高いというか、やりたい放題って感じもしますが、それでも気品がありますね。

親分:「ハバネラ」も、南国的な情熱を色濃く表現しながら品格を失わない名演。
  そして、マスネ「タイスの瞑想曲」がまた素晴らしいんだ。

 

ガラッ八:・・・色っぽいですねえ。

親分:ヴィブラートたっぷりの、全身を震わせながら弾いているような繊細な音色が、センチメンタルな曲調にピッタリ。
  うたごころの氾濫というか、しっとり漂う抒情というか、とにかくロマンティックでチャーミングな演奏だ。
  次のベートーヴェン「ロマンス第2番」も綺麗だが、やはり圧巻は「チゴイネルワイゼン」

親分:第1部分のソロ・ヴァイオリンは啖呵でも切るようにぶっとい音で激しく切り込んでくる。

ガラッ八:かっこいいですねえ、男前なヴァイオリンって感じです。

親分:遅い第2部分は音色をがらりと変えてメロディをたっぷり歌い上げ、とても蠱惑的。
  強弱の幅、テンポの揺れも大胆きわまりなく、妖しくも官能的なオーラを放射しているが、下品になる一歩手前で踏みとどまっている。

ガラッ八:途中で止まりそうになったりして、思わずドキッとします。

親分:そして急速な第3部分は、色っぽい上行ポルタメント、歯切れの良いピチカート、エネルギッシュな重音、シルキーなフラジョレット、ありとあらゆる技がバッチリ決まってじつに爽快。

ガラッ八:もう「無敵の主人公」って感じですね。
  しかし親分のレビューと言うかベタ褒めぶりも相当テンション高いですけど、皆さんついてきてくれますかね?

親分:べ、べつに誰もついてこなくてもいいもんっ! 好きなものは好きなんだもんっ!

(2018.10.28.)


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