濱田滋郎/南の音詩人たち〜アルベニス、セヴラック、モンポウの音楽
(アルテス・パブリッシング 2022年)



Tower : 濱田滋郎/南の音詩人たち


昨年(2021年)亡くなった音楽評論家でスペイン音楽・フラメンコ研究家の濱田滋郎氏(1935〜2021)の文章は、雑誌「レコード芸術」などでよく目にしていました。
氏の批評はあらさがしをするのではなく、良いところを見つけて褒めるスタイル。
温厚で優しそうな人柄が感じられます。

その濱田氏の最後の著作となったのが

 濱田滋郎/南の音詩人たち〜アルベニス、セヴラック、モンポウの音楽

アルベニス、セヴラック、モンポウ・・・。

アルベニスはともかく、あとの二人は名前すら聞いたことのない方も少なくないのでは?
私にとっては3人とも大好きな作曲家なので、本屋で見かけて即ゲット。
猫にマタタビ状態で一気読み、これからもたびたび参照してお世話になりそうな価値ある一冊となりました。

じつは3人とも、スペインのカタルーニャに縁の深い作曲家です。

 

イサーク・アルベニス(1860〜1909)はカタルーニャで生まれ、スペインの民族性に根差したピアノ曲を書きました。
30代にパリに移住し、フォーレ、ドビュッシー、ショーソン、ダンディ、デュカスなどとの交流によりその音楽はさらなる進化・発展を遂げるとともに、
豪放磊落で面倒見の良いキャラで人気者となりました。

 

本書ではアルベニスの最高傑作、ピアノ曲集「イベリア」について詳細に解説してくれています・・・が、
内容は古くからのわが愛読書である音楽之友社「最新名曲解説全集」に濱田氏が執筆した内容を若干修正したもののようです。

いちばん「へえ〜」だったのはショーソン「詩曲」にまつわるエピソード。

 彼(アルベニス)は作曲者に代わってこの曲の手稿譜をドイツのブライトコプフ・ヘルテル者に持ち込んだが出版をことわられ、
 友人を失望させたくないばかりに、自分で出版費用を持ったばかりか、ショーソンが亡くなるまでそれを秘し、
 疑われぬよう「印税」までも出版社からと言って彼に渡したのである。
  (20ページ)

なんていい奴・・・というかどこまでお人よしなんだ!
こんな馬鹿野郎、好きにならずにいられないよ!。

 スペイン組曲 作品47から「アストゥリアス(伝説)
 (アルベニス初期の代表曲)

 組曲「イベリア」から「トゥリアーナ」
 (円熟期の技巧的な傑作)


デオダ・ド・セヴラック(1872〜1921)はスペイン国境に近いフランスの田舎町に生まれました。
音楽家になるためにパリに出てスコラ・カントルムでアルベニスの生徒となります。
ふたりは師弟関係を超える友情で結ばれ、アルベニスの死後、未完のピアノ曲「ナバーラ」を補筆完成させました。
しかし華やかなパリは性に合わなかったようで、1910年(アルベニスの死の翌年)、スペイン国境に接する南仏の小さな街に移住、そこで一生を終えました。

 (←この赤いところです、ほぼスペインですね)

このあたりはセルダーニャ地方といってフランスだけどカタルーニャ語が使われ、風俗習慣や気質の面でもスペインのカタルーニャと共通しているんだニャ(←つい「ニャ」をつけたくなってしまった)

セヴラックは田舎の素朴な生活や豊かな自然を音に写し取ったような作品を残しました。
いわばコローやミレーの絵画を音楽にした感じでしょうか。
私も田舎者なので親近感がわきます。
ドビュッシーがセヴラックを評して「良い香りのする音楽」「土の香りがかぐわしい」と述べたことは有名です。

 

 「自然の美しさを和声で染め上げていくのだ」(セヴラックの言葉)

本書は伝記ではなく、「日本セヴラック協会」(あるんだ)の会報に掲載したセヴラックに関するエッセイをまとめたもの。
とはいえおよそ100ページの分量があり読み応えたっぷりでした。

 日向で水浴びをする女たち
 (陽光にきらめく水しぶきと、水浴びをする美女たちが見えませんか?)

 「休暇の日々から」から「公園でのロンド」
 (子供たちが遊んでいる様子かな?)

 組曲「セルダーニャ」から「ラバ引きたちの帰還」
 (軽快な足取りで仕事から帰ってくるラバの群れ)


フェデリコ・モンポウ(1893〜1987)は、カタルーニャの州都バルセロナの生まれ。
「カタルーニャのピアノの詩人」と言われ、主にピアノ曲を残した作曲家です。
長生きですが寡作で知られ、80歳の時に録音した自作のピアノ曲全集がCD4枚に収まるほど。

 

彼の曲はシンプルでメロディックで不協和音もないですが、不思議な深みを持ち聴く者の耳を奪います。

 

 根源的に絶妙に”素朴な”新鮮さが、彼の音楽を空気のように満たしている。
 この意味でモンポウはサティに近いが、また一方、断じてその亜流ではない。
 (196ページ)

 歌と踊り 第6番 (作曲者の演奏)
 (やるせない雰囲気の「歌」に、何かを振り払おうとするかのような「踊り」が続きます)

本書は80ページにわたってモンポウの簡単な伝記と主要作品の解説をしてくれ大変ありがたいです。
モンポウの自作自演「ピアノ作品全集」日本盤解説書に書いた文章がもとになっていますが、歌曲の歌詞対訳などもあって充実の内容。
濱田氏は1984年と86年に直接モンポウに会ったことがあるそうです。
そのときに聞いた言葉が紹介されています。

 「私には、同僚たちが作るような派手でにぎやかな音楽は書けなかった。自分の道を歩むしかなかったのですよ」 (196ページ)

 「内なる印象」より「秘密」
 (静かで単純な曲ですが、なんだか吸い込まれる・・・)

 前奏曲第7番「星でできた棕櫚の葉」
 (モンポウには珍しく激しく始まる曲)

ただいまゴールデンウィーク中、この本片手に3人の作曲家の曲をいろいろ聴きあさってみることにしましょう。

(2022.04.30.)


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