万城目学/悟浄出立
(新潮社 2014)



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砂漠の中、悟浄は隊列の一番後ろを歩いていた。
どうして俺はいつも、他の奴らの活躍を横目で見ているだけなんだ?
しかし、ある出来事をきっかけに、彼の心がほんの少し動き始める――。
西遊記の沙悟浄、三国志の趙雲、始皇帝暗殺を企てた荊軻、項羽の寵姫・虞美人、司馬遷の末娘・
中国古典の脇役たちに焦点を当て、人生とは何かをふと考えさせてくれる連作集。



ちんたら、こつこつ練習しているバッハ「無伴奏チェロ組曲」
なんとか第4番の最後の2曲、ブーレーとジーグに到達しました! やったー!
もっとも、こないだ久しぶりに第4番のプレリュードを弾いてみたら、あちこち忘れていて全然弾けなかったですけど、ははは。
覚えるのは時間も手間もかかるのに、忘れるのはあっという間・・・・。
思わず遠い目をしてしまいました。

ところで第4番のブーレーとジーグはこんな曲です。

 You Tube/バッハ:無伴奏チェロ組曲第4番「ブーレー」「ジーグ」

どちらも楽しそうな曲ですねえ。
もっとも、私が弾いても楽しそうになんて聴こえやしないんですが(←ちょっとやさぐれている)
調子はずれになにやらドタバタやってると思われるのが関の山。
まあ、誰に聴かせるわけでもないし・・・・・・ 家族にはうるさがられてますし・・・・・・
うーむ、ワタシ、いったい何のために練習しているんでしょう??

そうそう、「何のために」といえば・・・

 万城目学/悟浄出立

万城目学の新作は、中国の古典に材をとった短編集。
古代中国ものといえば、司馬遼太郎、陳舜臣、宮城谷昌光、北方謙三など、巨匠ひしめく激戦ジャンル。

万城目学もついにその激戦の中に身を投じるのか・・・と思いきや、最初の作品の主人公は「西遊記」沙悟浄
歴史上の人物と違いますやん。
悟空一行の中でもっとも地味な傍観者的立場の沙悟浄が、
猪八戒と哲学めいた問答を繰り広げつつ、自ら行動することに目覚めてゆくという筋書きは、歴史ものというより実存主義的自分探し小説。
それにしても沙悟浄さんも猪八戒さんも、三蔵法師より早く悟りを開いちゃってませんか。

そういえば万城目学の前作「とっぴんぱらりの風太郎」も戦国末期を舞台に、
居場所を失ったはぐれ忍者の風太郎が、自らの存在意義とアイデンティティを全うすべく命を懸けて奮闘する長編でした。
そのテーマは本作にも受け継がれています。
というか5編すべてが一つの主題による変奏曲のようであり、
どの主人公も、何のために生きるか、何をもって自分の存在の証とするかを考えています。
そういう意味では、すぐれて現代的な小説でありまして、単なる歴史小説以上に心に食い込んできます。

圧巻は「虞姫寂静」
「虞美人草」で知られる項羽の寵姫・の、誇りと全存在を賭けた鬼気迫る舞っぷり。
見事な一編でした、傑作。


ちなみに私にはべつに崇高な目的も、命を懸けて守るほどのアイデンティティも・・・ないような気がするなぁ。
せいぜいのんびりゆっくり、チェロの練習でもするといたしましょう。

(2014.11.4.)

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「悟浄、本当は俺は知っているんだよ。過程こそが一番苦しい、ということをね。
さらには天界と違って、この人間界ではそこに最も尊いものが宿ることもある、ということもね」

(35ページ)



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