ケイト・ブッシュ/ディレクターズ・カット
Kate Bush/Director's Cut
(2011)




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なんとまあ、こんなに早くケイト・ブッシュの新作が出るとは夢にも思いませんでした。
前作「エアリアル」から、たった6年しかたっていません!(「たった」って・・・)

といっても完全な新作ではありません。
1989年の6thアルバム"The Sensual World"と1993年の7thアルバム"The Red Shoes"から
11曲を選んで録音しなおしたのが、この"Director's Cut"(9thアルバム)。 

そもそもケイト、"The Sensual World"(1989)という曲では、
ジェイムズ・ジョイスの長編小説「ユリシーズ」の最終章「ペネロペイア」に曲をつけたかったのに
ジョイスの著作権者に問い合わせるとにべもなく拒絶。
しかたなく別の歌詞で発表したといういわくがあったそうです。

 The Sensual World
 

ところが最近ふたたび「歌詞に使わせてくれませんか?」とたずねたら、
あっさりOKが出て、ケイト大喜び。
タイトルも"The Flowers of Mountain"に変えて録音し直しました。
それならついでにと、ちょっと納得いってなかった過去の2枚のアルバムから何曲か選んで録り直したのがこれ。

ところで「ユリシーズ」最終章「ペネロペイア」とは、
主人公の妻モリーの妄想めいた独白が句読点なしで延々と続くという、
近代英文学史上屈指のミョウチキリンな代物なんですねえ。
図書館で読んで目が回りそうになりました。
ちなみに歌詞になっているのは、章の(つまり「ユリシーズ」の)最後の部分で

yesはじめてあたしが彼にシードケーキのかけらを口移しで食べさせたあれはyes今年とおんなじうるう年だったから16年まえだわそのあと長いキスであたしほとんど息がとまりそうでyes彼はあたしのことを山に咲く花と言ったのよyesだからあたしたちすべての女の身体は花なのよページから歩み出てセンシュアル・ワールドに入るのよジブラルタル娘のあたしは山の花だったわyesアンダルシアの娘みたいに髪に薔薇をさしたときそれとも赤がよかったかしらyesムーア人の壁の下で彼がどんなキスをしてくれたか(中略)そしてそのときあたしは彼にもう一度訊いてよと視線で頼んでyesそしたら彼はあたしにyesと言ってくれるかい僕の山の花よと言ってあたしは初めて彼の体に両腕をまわしてyesあたしのほうに引き寄せてyes彼はあたしの胸と匂いを感じてyesそして彼の心臓は狂ったみたいになってそしてyesあたしはyesと言ったのYesと言ったの

私がテキトーに訳したので間違ってる所あるかと思いますが
しかしこんなもん歌にしようと思うか普通?
日本で言えば夢野久作「ドグラマグラ」とか夏目漱石「夢十夜」にメロディをつけるようなものかな。

そして、ほかの旧作からの再録音は、基本的にもとのヴァージョンより地味になっているような・・・。
良く言えば落ち着いた作りと言うのか・・・。
ともあれ、ケイト・ブッシュ自身は非常に満足しているようです。

 Rubberband Girl("The Red Shoes"より)
 

そういえば、ケイト・ブッシュのアルバムに参加したあるスタジオ・ミュージシャンの話ですが
ケイトが「いい」というテイクと「ダメ」というテイクの違いが、最後まで全くわからなかったそうです。
「美」に対する感覚が普通の人とはかなり異なっているのでしょう。
それはPVを見ていても感じることで、一定量の「狂気」「毒」が含まれていないと彼女は満足しないようです。
前のヴァージョンは彼女にとっては狂い方が生ぬるかったのかもしれません。
ただし今回のディレクターズ・カット・ヴァージョンで狂気が増量されているかどうかは私にはわかりませんでした。

 Kate Bush is an Artist. Not a Pop Star.

なのでこのアルバム、全然聴きやすくもとっつきやすくもありません。
同じ歌モノなら、マーラー「大地の歌」シェーンベルク「月に憑かれたピエロ」のほうが
よっぽど親しみやすいんじゃないかと思うほど(「同じ」か?)
今回のアルバムも多分一般受けはさっぱりだと思います。
すくなくとも初めてケイト・ブッシュを聴く人には絶対に勧められません! ならなぜ紹介する。

 初めて聴かれる方は、第1作"The Kick Inside"か第2作"Lionheart"をどうぞです。

それにしてもケイト・ブッシュの声は好みですなあ。
若いころの脳天突き抜けキンキン声も唯一無二でしたが、
年を経てからの深みと艶のあるシルキー・ヴォイスもとても好き。
まろやかに熟成したワインのよう、聴けばすぐにわかる独特の声質です。

 The Moments of Pleasure("The Red Shoes"より)
 

さらに、過剰なまでに作りこんだアンビエントなサウンド、奇妙にねじくれたメロディがあいまって、
耳に引っ掛かりまくる音楽になっているのは前作「エアリアル」以上。
聴いて心地良いのとは違って、「なんなんだこれは?」と思ってしまったときにはすでに半分この魔女の術中に。
一度はまるともう抜けだせません。

くれぐれもご注意のほど。

(11.5.28.)

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HMV : The Sensual World icon HMV : The Red Shoes icon
Tower@jp : The Sensual World Tower@jp : Red Shoes (US)

Eat The Music("The Red Shoes"より・"The Director's Cut"には収録されていません)



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