フィリップ・リーヴ/アーサー王ここに眠る(2007)
(井辻朱美・訳 創元推理文庫)



Amazon : アーサー王ここに眠る

ブリテン島、紀元五百年ごろ。荒々しい騎馬軍団が、館を襲い火を放った。
命からがら逃れ出した下働きの少女グウィナは、奇妙な風体の男にひろわれる。
タカのような風貌の男の名はミルディン、軍団の長アーサーに仕える吟遊詩人。
言葉を巧みにあやつり、人の心を手玉に取る不思議な男。
孤児グウィナの運命は、その日から一変する。


「アーサー王ここに眠る」

「移動都市」四部作が超面白かったフィリップ・リーヴの小説やん! と本屋で見かけた瞬間に購入。

期待は裏切られませんでした。
ただしアーサー王伝説をよく知らないのでまずはちょっと調べました。

 ブリタニア(イギリス)は紀元40年ごろからローマ帝国の一部でしたが、紀元476年に西ローマ帝国が崩壊したことで群雄割拠の戦国時代に。
 さらに北ドイツ・デンマークあたりからサクソン族が渡ってきて略奪を働き社会は大混乱。
 湖の女神から聖剣エクスカリバーを授けられた英雄アーサーはブリテン人をまとめあげ「円卓の騎士団」を組織、
 サクソン族を撃退しようとしますが闘いの中で深手を負います。
 瀕死のアーサーが部下にエクスカリバーを魔法の湖に投げ入れるよう命じると、湖から手が現れて剣を掴んで沈んでいったといいます。
 そして三人の湖の乙女が現れてアーサーを船に乗せ、アヴァロンという島に運んでいきました。
 アーサーは今もアヴァロンで深い眠りについているそうです。
 それって死んでるんじゃ・・・というツッコミはなしだそうです。

なお個人的には「アヴァロン」といえば、ロキシー・ミュージックのラスト・アルバムを連想する私です。

アーサー王は実在のモデルはいるかもしれないけれどあくまで伝説上の存在。
日本で言えば須佐之男命か日本武尊みたいな感じですかね。

本作「アーサー王ここに眠る」の主人公は孤児グウィナ。
下女として仕えていた館がアーサーに襲われ、吟遊詩人ミルディンに助けられます。
ミルディンはグウィナが泳ぎが得意なことを知ると、アーサーが訪れた湖に彼女を潜らせ、聖剣エクスカリバーを水中からアーサーに授けさせます。
アーサーは野心はあるが単細胞で粗野なならず者、突然授けられた不思議な剣にすっかり英雄気取り。
剣はミルディンがそのへんの市場で買ってきたものですが、アーサーは聖剣と信じ込みます。

じつは吟遊詩人ミルディンはアーサーこそブリテン統一を成し遂げる器と見込み、彼をプロデュースする目的で、アーサーを主人公とした英雄譚を広めているのです。
もちろん話はあることないこと「盛って」いるのですが、ミルディンの巧みな語りはどこへ行っても大人気。
グウィナも少年に変装して彼に従います(女のままだと危ないので)。

不思議なことに、アーサーを知らない人だけでなく知っている人さえ、本物のアーサーよりミルディンが聞かせる英雄アーサーの活躍を信じたがり、やがて本当に信じていきます。
人は事実よりも、そうあってほしいと思う事を信じるものなのですね。

つまりこれは「物語の力」を描いた小説なのです。

しかし現実のアーサーは武勇には優れるのものの「サクソン族からの保護」を名目に弱小領主から金や物資を徴発するヤクザの親分みたいな男。
そこそこ豊かな領土を得て満足してしまい、ミルディンが願う救国の英雄にはなってくれそうもありません。
結局ストーリーは苦い結末を迎え、ミルディンも病に倒れます。
成長したグウィナはミルディンのあとを継いで女流吟遊詩人となり、アーサー王伝説をさらに広めてゆく・・・。

元ネタであるアーサー王伝説に詳しければ詳しいほど楽しめると思いますが、ろくに知らなくても面白く読めます。

(2021.10.10.)


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