若竹七海/暗い越流
(光文社 2014)



Amazon.co.jp : 暗い越流

第66回日本推理作家協会賞“短編部門”受賞作「暗い越流」を収録。
短編ミステリーの醍醐味と、著者らしいビターな読み味を堪能できる傑作集!!


若竹七海/暗い越流

松本清朝のようなタイトルのこの本、若竹七海の久々の新刊です。
若竹七海といえば、「日常の謎」ものが流行した1990年代初頭に、「ぼくのミステリな日常」でデビュー、ミステリ好きをうならせてくれた人。
「競作・五十円玉二十枚の謎」という「珍作」の立役者としても名高いです。

小味なコージー・ミステリと思わせておいて、悪意とたくらみをすっと挟み込み、読者をぞっとさせるスタイルが特徴。
軽妙明晰な文章で「普通の人」の心に潜む闇を垣間見せる、そのブラック&ビターな味わいで根強いファンを掴んでいる作家さん。

勝手に「ライト・イヤミスの女王」と呼ばせて頂いております。

最近新刊をあまり見かけなくなったと思っていたら、2013年に「暗い越流」で日本推理作家協会短編賞を受賞。
これは受賞作を含む5編を収録した最新短編集です。

最初と最後にレギュラー探偵・葉村晶ものを配し、あいだの3篇はノン・シリーズです。
葉村晶は「和製ウォーショースキー」とも呼ばれるややタフでややハードボイルドな女探偵。
一見どうってことない依頼が、徐々に凶悪な貌をあらわにし、しまいに殴られたり骨折したり殺されかかったりするのがお約束。
どう考えても長生きできそうにないキャラクターですが、本作ではついに40歳の坂を超えたらしく、まあおめでたい・・・のかな?
今回の2編でも、期待にたがわずえらい目に逢いますが、どこかひょうひょうとしてユーモラスなのが素敵なキャラです。
しかし、ハエの赤ちゃんのくだりはくわばらくわばらです・・・。

前5編すべて若竹七海らしい面白さですが、賞をとった「暗い越流」より凄いじゃんと思うのが「狂酔」
アルコール中毒を克服したらしき男の独白で語られます。
最初は何の話なのか、どういう状況なのかわからないのが、徐々に見えてくる筆致は実に巧みで、ついつい引き込まれます。
そして最期の数ページで急展開、ラスト1行で思わぬところに着地します。
なんとこれって、×××モノだったとは!
スタンリイ・エリンロバート・ダンセイニより凄いじゃありませんか!(←微妙にネタバレにつき反転)
オールタイム・ベスト級の傑作短編だと思いました。

はじめて若竹七海を読む方にも安心しておすすめできる高水準。
面白くて、ちょっとゾワッとするライト・イヤミス・ワールドへどうぞです。

(2014.11.24.)


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