(素人による音楽形式談義・第7回)
3.その他の形式
B 変 奏 曲 形 式
「変奏曲」です。
かつらかぶったり、サングラスかけたり。
・・・それは「変装術」
じゃあ、『たこあげ』といえば?
『お正月?』
ピンポーン
はいはい、それは「連想ゲーム」(かなり苦しい)。
『変奏曲形式』は、主題を変形させた「変奏」をつないでいく形式。
ルネサンス時代には、器楽曲のための変奏曲がたくさん作られたの。
その後、バロック、古典派時代はもちろん、20世紀にも変奏曲は作られ続けているわ。
古くからある形式なのね。
好きなメロディを繰り返し演奏するうち、リズムやハーモニーをちょっと変えてみたくなるのは、自然なことでしょ。
いわば自然に生まれた形式とも言えるわけ。
素朴な形式なのね。
変奏曲には、装飾的変奏曲と性格的変奏曲があるの。
装飾的変奏曲は、主題のハーモニーやリズムやメロディを徐々に複雑にしてゆく変奏。
主題がだんだん装飾されてゆく感じなので、途中からでも、わりと簡単にもとの主題を思い出すことができるわ。
なるほど
性格的変奏曲は、主題の雰囲気や特長をある程度生かしながらも、自由に変奏していくもので、
曲を聴いていくうちに、もとの主題がどんなだったかわからなくなることもあって、ついていくのが難しいかも。
通向きの変奏曲といえるわね。
それパス! なんか、疲れそう。
それでは、シューベルト(1797〜1828)の、ピアノ五重奏曲「ます」から第4楽章を聴くわよ。
「ピアノ五重奏曲」というのはピアノ五台で演奏する・・・んじゃなくて、1台のピアノと他の楽器4台の五重奏のこと。
この曲の楽器編成は、ピアノ、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバス。
変奏技法としては、基本的に装飾的変奏曲なのでご心配なく。
シューベルト/ピアノ五重奏曲イ長調「ます」作品114 第4楽章
文中のタイミング表示は、このCDによっています。 この曲の、定番的な名演奏です。
Amazon.co.jp : Piano Quintet: Trout
HMV : シューベルト/ます(ブレンデル&クリーヴランドQ)
シューベルト「ます」より第4楽章
この曲は、シューベルトの歌曲「ます」(魚の名前よ)のメロディを主題にした変奏曲なの。
テンポはアンダンティーノ、調はニ長調。
アンダンティーノって?
アンダンテがゆっくり歩く速さ、アンダンティーノはそれより少し速いくらい。
まず、主題(0:00〜)、ピアノ抜きの弦だけで主題が演奏されます。
いいメロディなんだけど、なんだか・・・眠く・・・。
歌曲「ます」は、澄んだ小川を楽しげに泳いでいた鱒(ます)が、釣り人に釣られてしまう歌。
日本でも、「きよきおがわを〜」という歌詞で親しまれて・・・・
ぎゃあー! 目が覚めたー! 耳が腐るー!
そ、そこまで言わいでも・・・
さて第1変奏(1:07〜)、ピアノが主題をほぼ原型のまま演奏、弦楽器が小川のせせらぎのようにからんでいくもの。
これが変奏? 単にアレンジを変えただけって感じが・・・
まあ、まだ最初だから。 第2変奏(2:01〜):ヴィオラ&チェロと、ピアノが主題を歌いかわし、
ヴァイオリンが三連符でそれを装飾する、明るい変奏。
このヴァイオリン、小鳥がさえずってるみたい。のどかな雰囲気。
第3変奏(3:02〜):主題は主にコントラバスの低音で奏でられ、ピアノが華やかに飾り立てる。派手な変奏でしょ。
うーん、なんか盛り上がってきたわね!
第4変奏(3:52〜):ここまではニ長調だったけど、ここで突然ニ短調に変わって、叩きつけるような激しい変奏。
主題のメロディもかなり変形されているわ。
あらら、突然怒りだしたみたい。
途中に短調の激しい変奏を入れて、曲の雰囲気を変えるのは、変奏曲の常套手段よ。
へーん、そう? なんだか情緒が安定しないヒトみたいでちょっとコワイなあ。
後半はテンポを落として、ニ長調に戻って終わるのよ。
第5変奏(4:54〜):一転、穏やかな変奏。 この変奏は変ロ長調で、性格的変奏の性質をもっているの。
チェロが変形された主題を演奏、それに他の楽器がハーモニーを付けていく。
後半はこれまでの変奏より長くなっていて、夢見るような雰囲気のなか次々に転調していくのよ。
ほわ〜んとした感じね〜。まただんだん眠く・・・。
第6変奏(6:33〜):もとのニ長調に戻るわよ。 ぱっともやが晴れたような感じがするでしょ。
おお、目が覚めた!!
主題はほぼ原型どおり、ヴァイオリンとチェロで交互に演奏され、
ピアノが跳ねるようなアルペジオで伴奏、これはじつは原曲の歌曲「ます」のピアノ・パートとそっくり。
なるほどー、たしかに身をひるがえす魚みたいだわ、このピアノ。
そして最後は静かに曲を閉じる、と・・・
さて、ここでなぞなぞです。 「マスクのなかに隠れている魚は、な〜んだ?」
「ます」!
・・・なかなかやるじゃないの。
おほほほほ。
シューベルトのピアノ五重奏曲「ます」について
フランツ・シューベルト(1797〜1828)22才の作品。 シューベルトは、ピアノ五重奏曲はこれ1曲しか書いていないの。
でも有名な曲よね。名曲なんでしょ。
古今のピアノ五重奏曲の中でも、屈指の名曲ね。
1819年の夏、シュタイナーという街に滞在していたシューベルトは、とある音楽愛好家からピアノ五重奏曲の作曲を依頼されたの。
そこでウィーンに戻ってから書き上げたのがこの曲。変奏曲の主題に2年前に作った歌曲「ます」を使ったのは、
シューベルト・ファンだった依頼主の希望らしいわ。
熱心なファンね。作曲家としてもうれしかったんじゃないかな。
ところで、この曲の編成はちょっと変わっているの。
普通、ピアノ五重奏曲はピアノ+弦楽四重奏なんだけど、この曲はヴァイオリンをひとつ減らして、代わりにコントラバスを入れてるの。
結果的に低音部が充実することになるわね。第3変奏でコントラバスが主題を演奏するところなんか、おもしろい効果をあげているわ。
コントラバスといえば、あの一番大きいやつね。なるほど、普通は使わないのか。
さらに珍しいことにこの曲は5つの楽章でできているの。 普通は4つなんだけど。
楽器編成は特殊で、演奏時間も少々長いんだけど、すばらしい名曲なので、けっこうよく演奏されるみたいね。CDもたくさん出ているわ。
編成が特殊だと演奏しにくいの?
普通のピアノ五重奏曲なら、弦楽四重奏団にピアニストが加われば弾けるけど、この曲はどこからかコントラバス奏者を呼んでこないといけないでしょ。
そうか、おまけにヴァイオリンが一人あぶれるから、人間関係にもひびが入るわ。 罪作りな曲ね〜。
んな大げさな。
ピアノ五重奏曲について
さっきも言ったけど、ピアノ五重奏曲はピアノ+弦楽四重奏が普通の編成。
管楽四重奏を使うこともあって、フルート、オーボエ、クラリネット、ファゴット、ホルンなどから4つが選ばれるの。
ピアノ五台で演奏するのかと思っちゃった。 にぎやかそうでいいのにな〜。
うるさいだけだって。 ピアノ五重奏も弦楽四重奏ほどではないけど、たくさんの名曲があるのよ。
モーツァルトとベートーヴェンにはピアノと管楽器のための五重奏曲が1曲ずつあるし、
ロマン派ではシューベルト、シューマン、ブラームスがすばらしい五重奏曲を1曲ずつ残しているわ。
あと、フォーレ2曲、フランク1曲、ドヴォルザーク2曲、有名でないけどシュポア1曲、サン=サーンス1曲、バルトーク1曲。
20世紀には、ロシア(ソ連)のショスタコーヴィチとシュニトケが、やはり1曲ずつ優れた作品を残しているわね。
うわわわ、わけわからん名前がずらずらと。 でも、1曲とか2曲が多いね。
どういうわけか、ピアノ五重奏曲をたくさん書く作曲家は少ないわね。
例外は18世紀にスペインで活躍したボッケリーニ。 12曲ものピアノ五重奏曲を残してるわ。
んで、それは傑作なの?
肩のこらない、楽しい曲が多いんだけど・・・ 残念ながら、音楽史上に残る不朽の大傑作、とは言えないかも〜。
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(05.9.17.)