ロバート・F・ヤング/たんぽぽ娘
(伊藤典夫・編 河出書房新社・奇想コレクション 2013年)



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このユルさがたまらん


何年も前から「出る、出る」と言われながら一向に出る気配がなく、一部で「出る出る詐欺?」とささやかれていた、
河出書房・奇想コレクション「たんぽぽ娘」が、ついに出ました、ホントに出ました。
私も3年ほど前、「時の娘」というアンソロジーをご紹介した時に、
「近刊の予定」なんて書いてしまって気にしていたのです(←多分誰も見てないけど)

いやー、出てよかった、長い便秘が解消した気分。

 「たんぽぽ娘」は、長年絶版だったところへ「ビブリア古書堂の事件手帖」で取り上げられて一気に関心が集中、
 高額な古書価がついておりましたが、これで適正化することでしょう。

本書には「たんぽぽ娘」を含め、ロバート・F・ヤング(1915〜1986)のSF短編13篇が収められています。
1960〜70年代に書かれたものがほとんどであり、古き良き20世紀SFを堪能できます。
理解不能な科学理論や、こむつかしい哲学的議論などは出てこないので、安心です。
正直言うと、20世紀SFとしてもかなり牧歌的な味わい、言ってしまえばユルいです。

 しかし、このユルさがたまらん!

表題作の「たんぽぽ娘」からして、「はよ気づけよ!」と言わずにはいられませんし、ほかにもツッコミどころ満載。
良くも悪くもアマチュアっぽい香りが漂います。
「このくらいなら自分にも書けそうかな?」なんて気がするほどです(←気がするだけですが)
解説によるとヤングは、別に仕事を持ちながら執筆活動をした、いわゆる兼業作家だったそうです。
なんか親近感わきます。

「たんぽぽ娘」以外は初読。

「河を下る旅」は、三途の川(?)を舞台にしたボーイ・ミーツ・ガールという意表を付く設定ながら、
たいへん都合の良い展開で安心して読めます。

「荒寥の地より」は、とにかくいい話でした。
一種のおとぎばなしと言うか、古き良き時代の人情話。
ノスタルジックでめちゃくちゃ甘くて・・・いいなあ、これ好きだなあ。

「ジャンヌの弓」も、オチは見え見えなんだけど、楽しく読めました。
ヤングはボーイ・ミーツ・ガールものが大好きだったようですね。

なお「奇想コレクション」は、これが最終回配本だそうです。
テリー・ビッスン「ふたりジャネット」エドモンド・ハミルトン「フェッセンデンの宇宙」など、
良い本をいろいろ出してくれたシリーズだけに、ちょっと残念。

(2013.7.1.)

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