テリー・ビッスン/ふたりジャネット(中村融・訳 河出書房 2004年)



Amazon.co.jp : ふたりジャネット

「熊が火を発見する」
 日曜日の晩、州間高速65号線を走っていると、タイヤがパンクした。
 暗い中でタイヤ交換に難儀していると突然あたりが明るくなった。
 見ると二頭の熊がたいまつをかかげて車を照らしてくれている。
 どうも熊が火を発見したみたいだな。

「穴の中の穴」
 愛車ヴォルヴォの替えの部品を求めて、怪しげな廃車屋に迷いこんだおれは、
 そこでまんまと目当ての品を手に入れた。
 おれはヴォルヴォ好きの親友・ウィルソン・ウーをそこに連れて行ってやった。
 するとウーは、この店の奥にある洞窟(!)が、月面に続いていると言い出したんだ。

                                    ・・・・・・ほか全9編

テリー・ビッスンは、アメリカの作家。
タイトルと表紙絵からは、おしゃれなラヴ・ストーリーを想像しますが、じつはSF短編集です。

最初の、「熊が火を発見する」は、寓話的でファンタジックな物語。
黙って焚き火を囲んで、車座に座っている熊たちの神々しいイメージが、心に残ります。
彼らはこれから進化してゆくなかで、その神々しさを持ち続けてゆけるのでしょうか。

楽しいのは、「万能中国人ウィルソン・ウー」シリーズ(全3編)。
ウーは、ブロンクス科学学校で物理学を学び、パリでパン職人の修行をし、プリンストンで数学を修め、
香港で漢方を習得し、ハーヴァードだかイェールだかで法律を専攻し、NASAに勤め、法律事務所に勤め、
身長186cmで、ギターを弾き、おまけに気象学の学位と、美しい妻と二人の息子を持っています。
彼は、親友・アーヴとともに、アポロが月に置いてきたデューン・バギーの回収を試みたり、
宇宙の時間が逆転するのを防いだり、すました顔で大活躍します。
要するにドラえもんの大人版ですね。
「この現象は、単なる不適合新位相幾何学的超越ユークリッド的隣接じゃない」とか、
「スーパーストリングの軸上の遠隔反エントロピー的場の相対的線形安定性の計算を、
 ラクダが水を飲めるように井戸の毒を沈殿させるための古代天山の呪文と組み合わせたんだ」
などの、
妙ちきりんな説明とともに、「数字は嘘をつかない」と言っては、怪しげな数式を書きなぐるウー、
最高にご機嫌なキャラクターです。

タイトルになっている「ふたりジャネット」は、短くて奇妙な作品。
私は5分で読み終えましたが、あまりの変さに、読後10分くらい唖然とし、その後脱力しました。
おそらく読んだ人の93%は、「なんじゃあ、こりゃあ」と、松田優作のように叫ぶことでしょう。

楽しく笑える(あるいは脱力する)作品が多いので、万人向け、と言いたいところですが、
かなりひねってありますので、やっぱりこれは、心の広いあなた向けの一冊。
(04.4.4.記)

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