マンジット・クマール/量子革命
〜アインシュタインとボーア、偉大なる頭脳の激突
(青木薫・訳 新潮社 2013年)



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世界の根源には何がある?
量子の謎に挑んだ天才物理学者たちの100年史。
20世紀に生まれた量子論は、ニュートン以来の古典的な世界像をどう書き換えたのか。
アインシュタイン、ボーア、ハイゼンベルク、ド・ブロイ、シュレーディンガー・・・
「偉大なる頭脳」たちが火花を散らした量子革命100年の流れを、
豊富な逸話をまじえ、流麗な文章で描いた驚異のポピュラー・サイエンス。




「フェルマーの最終定理」 「暗号解読」 「宇宙を織り成すもの」 の翻訳者、青木薫氏の翻訳ということで期待しながら読みました。


 期待以上でした!


アインシュタイン、ボーアを筆頭に、綺羅星のごとき天才科学者たちの友情・反目・人間的葛藤をいきいきと描きつつ、
量子力学100年の流れを小説のようにまとめ上げた傑作サイエンス・ノンフィクション。

量子力学について語った本はたくさんありますが、これ、サイコーにわかりやすいです!
読み終わったあとしばらく、量子力学がわかったような気になってしまうほどです。
もちろん、気のせいです。
ノーベル賞を受賞した、偉い物理学者の先生もこう言ってます。

 「相対性理論は誰でも理解できるが、量子力学がわかっているというやつは嘘つきだ」(リチャード・ファインマン)


そもそも「量子」とは、魚をとって生活している人ではなくて、それ以上分割できない最小の粒子のこと。
1899年、マックス・プランク(1858〜1947)が「光のエネルギーは、ある最小単位の整数倍の値しか取ることが出来ない」ことを発見したのに始まります。
当時、光は波と考えられていたので、これは奇妙なことでしたが、ともかく彼が発見した光の最小単位は「プランク定数」と呼ばれました。

その後、アルベルト・アインシュタイン(1879〜1955)が光量子説(光は波であると同時に粒子である)をとなえ、
彼の親友にしてライバル、ニールス・ボーア(1885〜1962)は量子論を取り入れた原子模型を考案しました。
原子といえば、陽子と中性子からなる原子核の周りを、電子が回っているイメージ。
しかし、プラスの電荷を持つ陽子とマイナスの電荷を持つ電子が、なぜ完全にくっついてしまわないのかとか、
電子が回り続けるエネルギーはどこからくるのかなど、奇妙なことがたくさんあったのです。
ボーアは量子論を駆使して、それらに説明をつけることに成功しました。

さて、研究すればするほど、量子レベルのミクロな世界では、通常の物理学が通用しないことがわかってきます。
何しろ量子は「波であると同時に粒子」なのです。 わけがわかりません。
量子の波動性が顕著なとき、粒子は空間に広がっていて、どの位置にあるのかわかりません。
いっぽう粒子性が顕著なとき、粒子の位置は特定できても、運動量は測定できません(運動量は物質波の波長によって決まるため)。
つまり、位置と運動量は同時に測定することはできないのです。
これが量子力学の大原則として有名なヴェルナー・ハイゼンベルク(1901〜1976)の不確定性原理

 そして、コペンハーゲンにあったボーア研究所が打ち出した量子の根本的解釈「コペンハーゲン解釈」をめぐり、
 アインシュタインとボーアは、決定的に対立します。

「コペンハーゲン解釈」とは、

 「観測されるまでは粒子に『位置』というものはない。誰かが観測した瞬間、波動関数が収束して位置が定まる」

という考え方です。
アインシュタインはこれに反対し、

 「観測するしないにかかわらず粒子は空間のある一点に位置している。その場所を確率分布でしか予測できないだけだ」

と主張したのです。

 アインシュタインは、「神はサイコロを振らない」との名言を吐き、
 エドウィン・シュレーディンガー(1887〜1961)は有名な「シュレーディンガーの猫」という思考実験(というかジョーク)を生みだしました。
 なお、シュレーディンガーは、大変な女たらしであり、彼の最大の業績のひとつ、波動力学の発見は、妻に隠れて愛人とスキーリゾートにしけこんでいる時になされました。
 後年、妻と愛人をひとつ屋根の下に住まわせて騒ぎになったりもしてます。

さて、アインシュタインは、ボーアの主張を崩すために全力を注ぎ、
ボーアもあらゆる手段で「コペンハーゲン解釈」を防衛、熾烈な論戦が展開されます。
しかしそれでも、二人は強い友情で結ばれていた・・・というちょっとした感動のドラマです。
うーむ、星飛優馬と花形満、ケンシロウとラオウのようではないですか!(←違う?)


さて軍配はどちらに上がったのか?
「量子というデーモン」の行方は何処に?
知的好奇心をビンビンに興奮させてくれる、クールで熱い一冊であります。

(2013.6.29)

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