ジャン=フランソワ・パイヤール/J.S.バッハ: 管弦楽・協奏曲録音集(15枚組)



Tower : パイヤール/バッハ管弦楽・協奏曲録音集

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1960年代、「第一次バロック音楽ブーム」がありました。

きっかけはイ・ムジチの録音した「ヴィヴァルディ/四季」(1959録音)。
全世界で予想外のベストセラーになり、イ・ムジチ・メンバーは大儲け、無名に近かったヴィヴァルディは人気作曲家に成り上がりました。
二匹目のどじょうを狙ってオーマンディバーンスタインまで「四季」を録音する騒ぎ、それに釣られてバッハやアルビノーニなどの人気も上昇しました。
冗談じゃなく当時の日本のご家庭では一家に一枚「四季」のレコードがあったんじゃないでしょうか。
バロックの専門家でなかったカラヤンも60年代にはヘンデルの合奏協奏曲やバッハの管弦楽組曲、ブランデンブルク協奏曲などドイツ・バロックを熱心に録音しました。

当時の欧州バロック音楽シーンは、イタリアではイ・ムジチイ・ソリスティ・ヴェネティが妍を競い、
ドイツではカール・リヒター率いるミュンヘン・バッハ管弦楽団、カール・ミュンヒンガー率いるシュトゥットガルト室内管弦楽団、クルト・レーデル率いるミュンヘン・プロアルテ合奏団などが活躍。
そしてフランスでは、パイヤール室内管弦楽団が人気を集めました。

ジャン=フランソワ・パイヤール(1928〜2013)はフランス・イタリアのバロック音楽を得意とし、柔らかくふわっとした演奏でドイツ系の団体とは一線を画しました。
名前もいいですね、「ジャン」「フランソワ」「パイヤール」ですからね、私なんか単純ですから口にするだけで気分はもうおフランスです。

さてこのたび、パイヤール室内管弦楽団のバッハ録音を集めたボックスセットが発売されました。

お家芸のフランスモノではなくバッハ、バッハ尽くしです、これは面白そう!
うどん屋でそばを頼むような、演歌歌手にロックを歌ってもらうような、寿司職人が作ったハンバーガーをいただくような感じと言いましょうか、
「どんなものが出てくるんだろう?」と興味をそそられます。

結論から言えば予想通り優美で流麗、華やかで洗練されたバッハでした。
ゴツゴツしたところはどこにもありません。

ブランデンブルク協奏曲第4番ではバッハがリコーダーを指定しているのにあえてジャン・ピエール・ランパルアラン・マリオンという名手ふたりのフルートを起用、
華やかです、きらびやかです、天使のさえずりです。

 

第2番ではなんといってもモーリス・アンドレのトランペット!
輝かしく軽快でけたたましく(失礼)、こんなに能天気でいいのかしらと思うほど。
他の独奏楽器がかすんじゃいます。

 

モーリス・アンドレ管弦楽組曲第2番のトランペット版でも嬉々として吹きまくっています。
「もう好きなようにしてくれ・・・」というバッハ先生の諦め顔が見えるようです。

 バディヌリ
 (これってトランペット狂騒曲・・・失礼、協奏曲だったっけ?)

いっぽうチェンバロ協奏曲では、チェンバロが一歩下がって遠いところから聴こえてくるようです。
そもそもチェンバロの音は小さいものですが、チェンバロを強調した録音が多いなかでかえって新鮮。

 

偽作の「管弦楽組曲第5番」が収録されているのも面白い。
現在は長男のウィルヘルム・フリーデマン・バッハの作品と考えられている曲ですが、これがまたいい曲で聴き入ってしまいます。
この人才能あります、酒で身を持ち崩さなければよかったのになあ・・・。

 第5曲 カプリッチョ
 

偽作ついでに「フルート協奏曲 BWV1059」も収録されています、素敵な曲です。
ランパルのフルートがきらりきらめいて典雅の極致。

 

ドイツ風の構築的なバッハと違って、ふわふわと流れるような耳にやさしいバッハ、大変楽しめました。

(2022.05.20.)


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