グラズノフ/弦楽四重奏のための5つのノヴェレッテ
弦楽四重奏曲第5番

サンクトペテルブルグ四重奏団 (DELOS DE3262)





アレクサンドル・グラズノフ(1865〜1936)は、ロシアの作曲家。
チャイコフスキーと、ラフマニノフにはさまれて、影の薄い人です。
こういうマイナーな人、なぜか私は好きなもので、一時期がんばって聴きましたが、交響曲(全8曲)は全滅。 さっぱり面白くありませんでした。
当時のロシアでは大好評だったというから、どっか感性が違うのでしょうか。
ただし「ヴァイオリン協奏曲」は、かなり気に入りました。

「ショスタコーヴィチの証言」(中公文庫)という本の第2章は、ペテログラード音楽院学長・グラズノフ先生の姿を、いきいきと描いています。
アル中気味で肥満体、動作は鈍いが耳は鋭く、一度聴いた曲はたとえ学生の習作でも決して忘れなかったとか。
革命後の騒乱の時期には、生徒達をできる限り援助したそうです。
心優しい人情家で熱血漢、金八先生みたいです。
もっとも音楽はきわめて保守的で、ドビュッシーのことを「凝りすぎた不協和音の作者」と呼び、ショスタコーヴィチについても、

 「私は彼の曲は好きではない。しかしこれからはああいった音楽が好まれるだろう」

と述べたそうです。

そんなグラズノフの作品で、ヴァイオリン協奏曲以来ひさしぶりに「これはいい!」と思えるものを聴きました。

「弦楽四重奏のための5つのノヴェレッテ 作品15」は、22歳の時の作品。
「スペイン風」「オリエンタル風」「古風な間奏曲」「ワルツ」「ハンガリー風」の5曲からなります。
友人のサロンで演奏するために作った、肩のこらない作品。
とはいっても全部で30分以上かかりますが、長さを感じさせない楽しい曲です。
もっとも、「スペイン風」も「オリエンタル風」も、あんまりそう聴こえないところはご愛嬌。

 


つづく「弦楽四重奏曲第5番」は、円熟期の作品。
でも第1楽章はどうもいけません。厳粛なフーガで始まりますが深刻さが空回りしています。
交響曲にも同じことを感じたのですが、妙に力が入りすぎているような・・・この人が大上段に振りかぶれば振りかぶるほど、なんだかしらけてしまいます。
あと、どこで切ってもおんなじ雰囲気というか (などと大作曲家に向かってよく言うなぁ)。
でも第2楽章、軽やかなスケルツォ、これは好みです (しかしあの重い第1楽章の次がこんなに能天気でいいのか?)。
第3楽章は繊細なアダージョ。リリカルな歌にあふれるこの楽章、美しいです。
そして活発なソナタ形式のフィナーレ。楽しく沸き立つような音楽です。

 

ともに「音楽史上に不朽の名を残す傑作」では全然なくて、気の効いた娯楽音楽というべきものですが、不思議に心に残りました。

(03.10.25.記)


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