パトリック・クェンティン/わが子は殺人者(1954)
(大久保康雄・訳 創元推理文庫 1961年)



Amazon : わが子は殺人者 (1961年) (創元推理文庫)


三年前に妻が自殺して以来、出版社を経営するジェーク・ダルースの生活はわびしいものとなった。
夫からも息子からも愛されていた幸福な女が、なぜ自殺したのか?
さらにジェークの共同経営者が殺され、一人息子ビルが容疑者として逮捕されてしまう。
すべての証拠がビルを指し示す中、息子の無実を信じるジェークの孤軍奮闘がはじまる。


「二人の妻を持つ男」が面白かったので、パトリック・クェンティンをもう一冊読んでみました。

 わが子は殺人者(1954)

なにこれ大傑作じゃないすか!!
個人的にはこちらのほうが面白かったくらいです。

いわゆる本格ではありません。
殺人の罪に問われた息子を救い出す父親の戦いを一人称でつづったサスペンスです。
後半、ある人物の真の姿が明らかになることで事件の様相が一変するところはぞくぞくするほどスリリング。
それでも犯人は明らかにならず、というかかえって容疑者が増えてしまい推理は二転三転。

終盤、ジェークの妻の自殺と現在の殺人がリンクしてゆく構成は巧み、やっぱりなあ、なんかあると思ってたよ。
犯人は、この人でなくてはならない必然性には欠けますが、十分に納得でき意外性もたっぷり。
私自身はずーっとジェーンが怪しいぞ、というかこいつしかおらんやろと思っていたので、すっかり足元をすくわれました(空白はネタバレです、反転してください)。
また綺麗に騙されてしまったぜ・・・・・・こんな素直で純粋無垢な自分、嫌いではありません。

「パズル・シリーズ」でおなじみ、ピーターとアイリスのダルース夫妻が協力者として準探偵役を果たすのもファンにとっては嬉しいところ。
ジェークはピーターの兄なのです。
そして「二人の妻を持つ男」で名探偵ぶりを発揮した物静かで謎めいた美男子トラント警部も確かな存在感を放ちます。
クェンティン作品の探偵役が一堂に会する豪華作といえます。
ほのかに救いを感じさせるエンディングも好ましく、ここは「二人の妻を持つ男」との大きな違いといえます。

パトリック・クェンティン、巨匠です、手練れです、傑作メーカーです。
認識を新たにしまして、ただいま未読作をかたっぱしから読み漁っている次第。
ひとつ難を言えば、翻訳の古さがちょっと気になるかな。
新訳出してほしいですね。

(2019.7.27.)


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