ジャック・ヴァンス/宇宙探偵マグナス・リドルフ(1948〜58)
(浅倉久志・酒井昭伸 訳  国書刊行会 2016)



Amazon.co.jp : 宇宙探偵マグナス・リドルフ (ジャック・ヴァンス・トレジャリー)


ある時は沈毅なる哲学者、ある時は知謀に長けた数学者、
しかしてその実体は宇宙を駆けるトラブルシューター、その名もマグナス・リドルフ! 
魑魅魍魎の異星人たちを相手に、白髪白鬚の老紳士マグナスの超思考が炸裂する
痛快無比な宇宙ミステリシリーズがついに登場。


やあ、こんにちは。
以前どこかでお会いしましたかな?

私ですか? 私の名はマグナス・リドルフ、本業は哲学者にして数学者であります。
しかしこの宇宙には私のような人の良い年寄りをだまして金をかすめ取る悪辣な連中がおりましてな。
ときどき手元不如意、ありていに言えば素寒貧になってしまうのですよ。
そういうとき、旧知の仲である地球情報省長官からトラブルに悩む依頼主を紹介してもらい、
鋭敏な知性と推理の代償としていくばくかの謝礼を頂戴しておるわけですな。

惑星ココドでは、先住民の戦争を賭けの対象にする不心得な観光業者を回心させたものです。
追放者・放浪者・逃亡者ばかり十二種もの知性種族がひじ突き合わせる惑星スクレロットでは謎の横領犯マッキンチの正体を突き止めましたな。
ネイアス第六惑星では、貴重な農産物ティラコマの畑を荒らす未知の生物と対決し、あぶなくこちらがやられるところでした。

私はごらんの通り人品卑しからぬ紳士でありますから、依頼主とは常に良好な関係を保つことをモットーとしております。
しかし嘆かわしいことに最近は、横柄であったり、品性下劣であったり、金にいやしい依頼主が増えてきたこともまた事実。
なに、良いのですよ、そういう相手の前でも常に品位ある態度を保つことが私のプライドですからな。
ただ奇妙なことにそういう依頼主にかぎって、あとでさらに大きなトラブルに見舞われ、
とんでもない目に逢うことがよくあるそうで、いやあ不思議ですなあ、どうしてですかなあ。

日出ずる国の読書界に紹介されるのは初めての私、
カバーイラストは「それでも宇宙は廻っている」じゃなかった「それでも町は廻っている」というコミックで熱狂的なファンを持つ
石黒正数氏に担当いただいております。
「それでも町は廻っている」は、ここのHP管理人も全巻揃えておるそうですが、知的刺激に満ちたすばらしいコミックですぞ。

そういえばここのHP管理人、私の冒険譚を読みながら「なんかキャラがかぶる」とつぶやいておりましたが、解説を読んで疑問氷解。
ジョージ・R・R・マーティンの「タフの方舟」は、私へのオマージュだったのですな。

 「ジャック・ヴァンスは、僕が意識して模倣を試みた、あとにも先にも、たったふたりの作家のうちのひとりだ」(ジョージ・R・R・マーティン、本書422ページ)

最後に著者についても触れておかねばなりませんな。
ジャック・ヴァンス(1916〜2013)は、アメリカのSF作家。
さまざまな異星人が跋扈する奇妙で多様な世界を活写して他者の追随を許さず、「異世界構築のマエストロ」と呼ばれております。
以前このHPで紹介した「奇跡なす者たち」も、私こそ登場しませぬが、なかなか読みごたえのある短編集であることは保証しますぞ。
ヴァンスの作品は王道的エンタテインメントであり、小難しくないところも痛快であります。
わが冒険譚の執筆時期は1948年から58年といささか昔ではありますが、意外なほど古さを感じさせませんので、ぜひご一読を。

(2016.09.24.)

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