村上春樹/騎士団長殺し
(新潮社 2017)



Amazon.co.jp : 騎士団長殺し :第1部 顕れるイデア編

Amazon.co.jp : 騎士団長殺し :第2部 遷ろうメタファー編


いやあ、面白かったです。遅ればせながら2日で一気読みさせていただきました。

なかなか見事であるじゃないか。

恐縮です。 ところでこの作品、村上春樹ワールドの総集編というか、ベスト・アルバムのような感じがするのは私だけでしょうか?

よい質問じゃ。 とても良い質問だぜ、諸君。

大切なものを失った主人公が、異世界に迷い込み試練を経て、何かを回復するというパターンは、これまでにもありましたね。

それで何の不都合があるだろうか?

不都合があるというのではありません。
ただ、過去の作品に出てきたモチーフやガジェットもいろいろ再登場します。
異世界に通じる井戸とか、唐突に別れを切り出す妻とか、邪悪な謎の存在(やみくろ的な)とか。

そう、すべてはどこかで結びついておるのだ。

さらに作者の敬愛するスコット・フィツジェラルド「グレート・ギャツビー」へのオマージュであり、タイトル通りモーツァルト「ドン・ジョバンニ」も踏まえています。
あ、「魔笛」もちょっと入ってますね。
それでいてこの作品、はじめて村上春樹を読む人でも違和感なく楽しめる気がします。
やはり「ベスト・アルバム」だからでしょうか。

caveat emptor。ラテン語で「買い手責任」のことである。人の手に渡ったものがどのように使用されるか、それは売り手が関与することではあらないのだ。

しかし、なぜあの場面であなたが殺されねばならなかったのか、いまだによくわからないんです。

それを教えるのはあたしの役目ではあらない。気の毒なことではあるが。

ところで私は第52章で、ある登場人物が気の効いた暗喩を言うように強要される箇所が面白かったです。
村上春樹といえば、気の効いた比喩が売り物ですからね(自己ツッコミ?)。
しかし彼のいう「二重メタファー」とはいったい何のことか、よくわかりませんでした。

真実とはすなわち表象のことであり、表象とはすなわち真実のことだ。
そこにある表象をそのままぐいと飲み込んでしまうのがいちばんなのだ


そうかもしれませんね、とにかく、とても面白く読みました。

目に見えるものが現実だ。 しっかりと目を開けてそれを見ておればいいのだ。判断はあとですればよろしい。

なるほど、あとでゆっくり考えればよいと。
しかし、あまり深読みはしない方がいいのかもしれませんね。

いずれにせよ、そろそろあたしは消えなくてはならん。
だからそろそろ失礼させてもらうよ。


はい、騎士団長、お疲れさまでした〜。

(2017.09.12.)


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