ジャニス・イアン/JANIS IAN (愛の翳り)(1978)



Amazon : LANIS IAN (愛の翳り)


ジャニス・イアンの70年代では最も地味な一枚。

1970年代のジャニス・イアンといえば・・・
"Between the Lines(愛の回想録)"(1975)  "Aftertones(愛の余韻)"(1976) "Miracle Row(奇跡の街)"(1977)と矢継ぎばやに傑作をリリース、
「十七歳の頃」はグラミー賞最優秀楽曲賞に輝きました。
つまり二十代にして「天下を取った」感絶頂のころに発売されたアルバム、それがこんなに地味でいいのかと正直思ったもんです。

ところが、じっくり聴くとじつに良いアルバムなんですねこれが。
タイトルはずばり

 JANIS IAN

あまりにシンプルすぎると思ったのか、日本盤には「愛の翳り」という邦題がつけられました。

前作"Miracle Row(奇跡の街)"のポップでロック寄りのサウンドからガラリ変わって、ジャジーでアコースティック。
スタジオ・ライブを一発録りしたようなシンプルな音作りがかえって素敵です。

特に好きなのが「Streetlife Serenaders(街角の吟遊詩人)」
ジャニスは巧みにピアノを弾きながら奔放に激しく歌い、ギター、ベース、ドラムスがしっかり支えます(普通にジャズの編成です)。
ダイナミックでスケールの大きな曲で、プログレッシブ・ロックの大曲を聴いたような印象を受けますが、じつは5分足らず! 
文学的で屈折した歌詞も魅力的 (はっきり言って意味わからんのだけど)。

 (名曲!)

 今夜こそ外に出よう 私の眼を見て 鼓動を聞いて 内にこもってはいられない
 街の明かりはにぎやかに響き 心が浮き立つ 夏の熱気と駆け足のリズム
 小麦畑の風車のように狂った太陽が空を飾り
 ゴーギャンはシンコペーションでため息をつき
 あなたの足音は川にこだまする 私はハイになる
 私が告げたことは秘密 泣きそうになるから

 クレイジー・ルイはさびれた酒場で愛を探している
 緊張を手袋のようにまとい 死と運命を垂れ流している
 復活と光の間で 私もそれを見てきた
 私が告げたことは秘密 あなたを愛しているから

 町の商店の女たちは美しく 稲妻のように金歯を輝かせる
 彼方の地下室の敗者たちにシグナルを送っているのだろう
 シンデレラは灰に恋をした 愛はフェアではない

 獣たちがたむろしている 咆哮が聞こえる
 戦争になる前に喧嘩をはじめよう
 通りはジャングルと化し すべての扉は施錠される
 私は街に帰る 娼婦が娼婦である場所へ

 家に帰れば全てが正されるだろう
 自分自身の主人になれば もう闘うことはない 友よ
 ジャングルの響きが頭に響き 最初から最後までなにも聴こえない
 風に吹かれる自分が怖い ふたたび街に帰りたい

 あなたの吐息はハリケーン 私の鼓動は海鳴り
 あなたの眼は薄汚れたガレー船の壊れた窓
 私の愛は夜を駆け抜ける 自由へと疾駆する乙女のように

 光が消えてゆくのを感じない ふたたび街に帰りたい


・・・凄い曲です。
「天才かっ!」と言うしかありません。


「Silly Habits」は完全にジャズ、というか最初に聴いたときはスタンダード・ナンバーかと思いました。
クラシカルで品格の高い曲です。
ピアノ・トリオ+ギターで歌われます。雰囲気たっぷりのピアノはもちろんジャニス自身。

 

 まだ愛している あなたに知らせようとは思わないけど
 そこに何かがある 見えない何かが
 あなたがそばにいるときは 馬鹿げた癖も意味深い

 ずっとひとりだった 長い長い間 本当よ
 毎晩家に帰るとき それはあなたのもとに帰ること
 あなたの足音に耳をすます 自分でノックさえしてみる 馬鹿げた癖も意味深い

 楽しく生きてきた 迷ったこともあった
 待たなくていいのよ あなたは今日 すべてを得る
 コーヒーは熱いのが好きなことを覚えてる? 馬鹿げた癖は意味深い
 
 あなたの道を行きなさい 私は私の道を行く
 いつかふたりの道は また交わるかもしれない
 昔「愛している」と言ったけれど ある日忘れる
 馬鹿げた癖は意味深い



最もポップな曲はシングル・カットされた「The Bridge」
いかにもシングル狙いなあざとさをかすかに感じないでもないですが、無茶苦茶良い曲なのでどうでもいいのであります。
クレア・ベイとのハーモニーもぴったり決まって心地よいです。
例によって歌詞は高尚で難解ですが。

 

 ふたりの魂の裂け目にかかる橋が 夜の中を極から極へと渡される
 希望は終わりなき夜を照らす光のように暗闇の中に散らばり 私たちを完全なものとし
 人生の海を 愛を感じながら泳がせてくれる
 大空に浮かび上がり 再び出会ったとき 暗闇でもがいていた私を思い出してほしい
 あなたは天をつかんでいた

 私は街に帰りたい 夜通しネオンが輝く場所へ
 街のロックンロールに私の心をささげよう
 あなたは私の魂の船長にして主人

 遠い昔 孤独の中で理由もなく空回りしていた
 二人の恋人が出会うとき 街路のリズムのように心は脈打つ
 哀しみの吟遊詩人が拍子をとり 真夜中のパーティ好きが一斉に動き出す

 でも私たちが再び出会うとき
 私が暗闇に堕ち あなたが天を我がものとしたことを
 思い出してほしい



40年以上たっても古さを感じない、味わい深いアルバム。
しっとりしたムードがアルバム全体を包み、「愛の翳り」とは言いえて妙、夜にじっくり聴くにふさわしい一枚です。
間違っても真夏のビーチで大音量で流したりしてはいけません(やらんわ)。

 Tonight Will Last Forever 
 

 明日の太陽は昇らない 世界にあなたの悲しみを告げるため
 もし月が時を乞い希うなら 今宵は永遠に続く

 星の光の行列 それらも消えてゆく 
 ひとつずつ 太陽に吸い込まれる 今宵は永遠に続く

 スターライト
 戦争のような風が私を驚かせ 風と咆哮が夜通し私を包む
 ミッドナイト
 空は永遠に続く 今だと思う 今こそその時だと

 恋人たちは出会う 地平線は沈み 星はぶつかり 天国は倦む
 天に触れるなら 這うのではなく走らねば 今宵は永遠に続く


(2021.05.22.)


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