米澤穂信/犬はどこだ(東京創元社 2005年)



Amazon.co.jp : 犬はどこだ


明るい学園ミステリ「クドリャフカの順番」が、見事私のツボにはまった米澤穂信氏の私立探偵もの。

 敏腕刑事・紺屋長一郎は、マフィアに婚約者を殺されたうえ、横領の濡れ衣を着せられ、追われるように警察を去った。
 それから5年、歌舞伎町の片隅で探偵事務所を構える紺屋の周囲で発生する売春婦連続殺害事件、
 やむにやまれぬ義理から調査を開始した紺屋の前に、彼自身の過去に関わる衝撃の事実が!
 紺屋は巨大マフィアを相手に孤独で絶望的な戦いを挑む・・・。

といった話では全然ありません。

堅実に大学を卒業し、堅実に就職したのに、病気で退職を余儀なくされた銀行員・紺屋(なんと退職したとたんに病気は全快してしまいます)。
学生時代に犬探しのアルバイトをやったことがある彼、とりあえず郷里で「犬探し屋」を開業します。
ところがのっけから持ち込まれたのは若い女性の失踪事件と、ある村に伝わる古文書の解読。
仕事は仕事、押しかけ助手の半田平吉(ハンペー)とともに調査を開始するうち二つの依頼は微妙にリンクしてきて・・・。

というお話です。これは本当。

失踪人は自分の意思で姿を消した可能性が濃厚で事件性は薄そうだし、
古文書の解読がどうして探偵の仕事かなあと、読者も登場人物も思いながら、物語はユルめに進んでゆきます。
私などはこのユルさが心地よいというか、かえってリアルな気がして好ましく読ませていただきました。
趣味の良いユーモアが通奏低音のよう。 ほのぼのしてます。
最初は単なるお調子者にしか見えなかったハンペーが意外にデキル奴かもしれなかったり、
今は主婦である紺屋の妹が1時間かかる道を20分で走る飛ばし屋だったり(元ヤン?)、脇役も充実、というか微妙に一癖ありそう。
探偵ものの長編には珍しく、警察は最後まで出てきません(つまり犯罪らしい犯罪が全然・・・あ、あまり言うとネタバレに)

そして見事なエンディング。
私立探偵ものやハードボイルドは、それなりに読んできたつもりですが、こういう終わり方は初めてです。
この終わりかた、あとを引きます。 怖いです。 これだけでも読む価値ありではないかと。
最後の一文は、「犬はどこだ」というタイトルへつながってゆきます。 巧みです。

米澤穂信、近いうちにブレイクするのではないでしょうか。

(05.10.16.)


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