斎藤美奈子/文壇アイドル論(岩波書店、2002年)



Amazon.co.jp : 文壇アイドル論


「文章読本さん江」(筑摩書房)に続く、斎藤美奈子の評論本。
村上春樹、俵万智、吉本ばなな、林真理子、上野千鶴子、立花隆、村上龍、田中康夫という
1980〜90年代に文壇/論壇をにぎわせた8人を俎上に上げます。

「じつは<W村上>も<ばなな>も読んだことないんだけど」
というあなたもご心配なく。
うわさ話や悪口は、知らない人に対するものでも、ついつい聞き入ってしまうもの。
大変面白く読めますよ (え、「そんなのお前だけだ!」って?)

しかし実は、この本は悪口でもうわさ話でもありません。
豊富な資料を読み込んで、鋭く分析、ベストセラー作家たちの本質をえぐりだします。
斎藤印のメスの切れ味はシャープで、思わぬ切り口に目ウロコの山が。

たとえば村上春樹の作品はロールプレイング・ゲームであり、シーク&ファインドの物語。
物語中にちりばめられた謎を解くことは、ゲームの攻略法や裏ワザ探しと本質的に同じこと、という指摘に
単純な私は深くうなずくしかありません。
また、一介の地方出身OLから直木賞作家へと「成り上がった」林真理子
アカデミズムの牙城から下世話な言論の世界へと「降りてきた」上野千鶴子
ネガとポジのように対比させて、現代女性論を展開する手腕、あざやかです。

同時にこの本は、「書評論」「作家論論」としても読めます。
当時の書評を新聞や週刊誌から丹念に探し出し (どこからこんなのみつけてきたんだろうと思うもの多し)
ピントはずれの評があれば容赦なくこき下ろします。
まあこれは、「今だからわかる」ってところもあるわけで、後出しじゃんけんというか、ややアンフェアな気がしますが、面白いことは面白い。
とくに初期の吉本ばななに関してはプロの文芸評論家の評よりも、
秋元康やいとうせいこうのような「業界人」のコメントのほうがずっと的を得ているという指摘(68ページ)は興味深いところです。

一番読ませるのは最後の「田中康夫」論。 「なんとなく、クリスタル」で彗星のようにデブーいやデビューして、
現在長野県知事の座にあるこの人、作家としてはどういう人なのか、イメージつかみにくいですね。
斎藤さんは、「田中康夫は80年代以降の都市風俗に取材した稀有な記録文学の書き手だった」(237ページ)
と述べ、かなり好意的な田中康夫論を展開します。 
それが正鵠を射ているのかどうか、私には良くわかりませんが・・・(なにしろ「なんとなく、クリスタル」しか読んでないからね)

断定口調が妙に心地よい斎藤さんの文章。
うまく言いくるめられてる気もしなくもないですが、面白いからまあいいか。
ただこの本を読むとあら不思議、読んだことがない上野千鶴子さえなんだか読んだような気になってしまいます。
読んでもいないたくさんの本を読んだ気にさせてくれる、とてもおトクな一冊ですね
(・・・いや、じつはけっこう危険な本かも) 

(03.1.10.記)



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