ニコス・スカルコッタス/波のダンス(管弦楽作品集)
(ステファノス・ツィアリス指揮 アテネ国立菅弦楽団 2019録音)



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<曲目>
ギリシャ舞曲集 第1集(12曲)
バレエ音楽「海」より
管弦楽のための組曲第1番


ギリシャが生んだ悲運の天才作曲家、ニコス・スカルコッタス(1904〜49)の管弦楽曲を集めたアルバム。

スカルコッタスは幼いころから音楽の才能を発揮、1921年に奨学金を得てベルリンに留学、シェーンベルクなどに師事して最先端の十二音技法をマスターします。
ヴァイオリニストと結婚して子供も生まれますが、音楽で食べていくことは難しく、経済的困窮からうつ病になってしまい、妻とも離婚。
失意の中、1933年に単身ギリシャに戻ります。
アテネでオーケストラのヴァイオリン奏者として働きながら膨大な作品を書きますが、ほとんど演奏されることなく、1949年に急病で亡くなりました。
なんとも気の毒な人です・・・。
20世紀末から再評価が始まり、いまやギリシャを代表する作曲家とされています。


スカルコッタス十二音技法の音楽と、ギリシャの民族的な音楽を並行して書きました。
このCDは両者をバランス良く収録したナイスな選曲で、スカルコッタス入門に最適です。

「ギリシャ舞曲集」(1931〜35)は、ブラームス「ハンガリー舞曲」やドヴォルザーク「スラブ舞曲」と同じノリの作品。
民謡の旋律を借用した曲もあれば、完全なオリジナルもあるそうです。
どの曲も民族的で生き生きしていて、活発な曲ではバルトークを思わせるワイルド感が心地よいです。

 第3曲「エピロティコス」 (もっとも有名な曲)
 

 第4曲「ペロポンニシャコス」 (怪獣映画のサントラに最適?)
 

 第9曲「ザロンゴの踊り」 (前半はミステリアスで抒情的、でもコーダはすっきり調性的)
 

「ギリシャ舞曲」はスカルコッタスの生前から時々演奏され、作曲者も要望に応えていろんな編成に編曲したそうです。
ただし生前に出版されることはなかったため、広く知られることはありませんでした。
管弦楽版では金管を前面に出したオーケストレーションが特徴的。


バレエ音楽「海」は1949年に作曲され、同年に部分的に上演されたバレエ作品。
作曲者は初演直後に急死してしまいました。
アルバムのタイトルになっている「波のダンス」は、このバレエの1曲。
ダンスといっても優美な感じはあまりなく、激しく渦巻く海を表現しているようです。
中間部はエレガントなメロディが登場し、対照の妙を感じます。

 波のダンス
 


管弦楽のための組曲第1番は6曲からなる35分の大曲で、十二音技法で書かれています。
1929年、ベルリンでシェーンベルクに師事していた時期に作曲しましたが、楽譜を置いたままギリシャに帰国してしまったので、1935年に記憶を頼りに再構築したそうです。
それだけ愛着のある作品だったのでしょう。

たしかに・・・

 これ、大傑作です。

 第1曲 前奏曲
 

緊張感ある冒頭から引き込まれます。
十二音技法ですが無味乾燥ではなく、音楽に血が通っている感じがします、表現意欲にあふれています。
ドラマティックで、ロマンティックな部分すらあり、耳をとらえて離しません。

 第5曲 シチリアーノ(舟歌)
 

この「舟歌」なんて、どことなくお洒落でスマートでスタイリッシュじゃないですか?
十二音なのに耳障りがいいのです。
はっきり言ってシェーンベルクよりずっと好みです。

 第6曲 フィナーレ ロンド 
 

フィナーレは機知あふれるロンド、音の立ち居振る舞いが爽やかというのか、変化に富んだオーケストレーションで退屈しません。
ふわりと軽いスピード感、気配りの行き届いた響きの彩り、時に聴こえる明るく澄んだ伸びやかな音色。
素晴らしい名曲ですが、作曲者の生前に演奏されることはなく、初演は1970年代で、今回のCDが世界初録音だそうです。

ギリシャの指揮者と管弦楽団による共感のこもった演奏もとっても素晴らしいです。
なお、ニコス・スカルコッタスはこのアテネ国立管弦楽団のヴァイオリニストを務めていたそうです。

スカルコッタス、まぎれもない天才です。
長生きしていたら、どれほど凄い曲を残したことでしょう。

(2021.06.27.)


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